時計の針は戻らない

□時計の針は戻らない
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大好きだよって言えたら、どれだけ楽になるかな?



『時計の針は戻らない』



3年生。



学校の、最高学年になった。



クラス替えはないからクラスメートも変わらない。



勉強はよりいっそう面倒になったけど。







「・・・・・4点?」



返却された中間試験の物理。



・・・・・史上最悪。







「4って、どこ合ってたんだ?」



隣で笑う土方に、指で正解した番号を指した。







「・・・・・それ答え違うと思うけど」



「え?!」



正解は0.59



私の答えは0.85







・・・・・どうして正解になっているんだろう?



見せられた土方の答案用紙。



彼にしても珍しい17点。



「それ0点だな」



「うっ・・・・・」



結局、0点になるのは嫌だったから先生には黙っておいた。



物理なんて嫌いだ。



大ッ嫌いだ!!



「今に始まった事じゃねェだろ。



欠点常習犯」



「煩い!!」



そりゃ今まで物理で40点超えたことないけど!!







「次にまた1桁だったら留年確定だろうな」



・・・・・どう聞いても洒落にならない。



人が真剣に落ち込んでいるのに、隣では愉快そうに笑う彼。



そんなに人の不幸が嬉しいか。







「・・・あ」



「どうした?」



「数Cのテキスト忘れた」



「おい・・・・・」



今日から新しいテキスト始めるとか言ってた。



で、本棚探したんだけど結局見つかんない。



「ってことで見せて」



「・・・分かったよ」













移動教室から戻って。



始まるのは数学C。



テキスト自体は数学U・Bだけど。



「次は忘れんなよ」



「とりあえずどこにあるか発掘する・・・・・」



「・・・・・」



どこやったっけ?



ロッカーにも無かったんだよ。



もしかして学年変わる時に片付けた中に間違って入れた?



「お前、一応片付け出来る方だろ?」



「一定の場所に置くようにはしてるんだけど、探すのは嫌い」



「・・・・・」



しばらく見つかんなくてもいいかと思ってしまうのは、見せてくれている相手が土方だから。



このまま、探さないでおこうか。



いや、そりゃさすがに悪いか。










「漸化式ってどうやって解くんだっけ?」



「お前受験に数学ないのか?」



「1校だけある。



漸化式の公式を知らないだけ」



「だけって、1回習っただろ?」



習ったには習ったんだけど、全く意味分かんなかった。



数学は得意だけど、ややこしいものは全くといって良い程出来ない。



それはもう、赤点をとるぐらいに。







「ややこしいから覚えてない」



「おい・・・。



ったく、漸化式ってのはこういう順番で解いていくんだよ」



土方はさらさらとテキストに解法を書いていく。



もちろん、丁寧な説明も忘れずに。



この際はっきり言うけど、どの科目においても私は彼に教えてもらうのが1番理解できたりする。



多分、思考回路が似ている所為なんだろうけど。



大体同じ場所で躓くことが多いのもその所為だろう。



「それをそのまま解くと分かり辛いからbnの式にしてここにあてはめると、



この式、つまり答えとなる式が導き出される」



「それそういう意味だったんだ。



なるほど、やっと分かった」



「理解力なさすぎ」



「煩い!」



端から見れば、私達はじゃれあっているように見えるだろう。



仲の良い恋人同士が、勉強を教え合っているように。







でも、その感情はいつだって一方通行で。



土方は私に恋愛感情を持っていない。



家族と同じくらい大切に思っているのは私だけ。



でもね、これだけは―――







キミがいなかったら、私は今この世に存在していないんだってことをいつか知って。



私をこの世から逃がさなかったのは、自覚のないキミだった。



1番辛い時に傍にいてくれたのは、紛れもなくキミだったんだ。



私がキミに依存するには、充分過ぎる理由。



だって、キミは私の命を救ってくれた人だから―――――・・・



2009.10.28
 

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