短編1

□真夏の夜の夢
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深くたゆとう微睡のなか、己を包む熱に手を伸ばす。

確かに肌に感じるその熱は、けれども決して掴むことができず指と指の間をすり抜けてゆく。

焦燥感と喪失感と悲愴感と何かと。

突き動かされるように求め続けた。

手の届かない憧憬。

己に足りない何か。

熱は、逃げていく。

だから、逃げ出した。

熱の届かない何処か遠くへ走って走って走って走って走ってハシってはしってはしって………………

肺が悲鳴をあげ、血反吐を吐き、手足が千切れ、そして。










気づけば、肌を舐める、火傷しそうなほどの。

やっぱり、と安堵の色を浮かべれば身体の奥まで浸食されてゆく。

逃げなければ求められない熱。










なにをうちにひめているのかなにをかんじているのかなにをほっしているのか










視界が回る。思考が揺れる。

堕ちてゆくのは、世界か、己か。

小さな己の器では溢れてしまう。

溢れて澪れたそれを掴もうと、再び手を伸ばし―――










目を開けると、眩しい銀色がいた。

優しい手、

優しい声、

胸の中を支配する、痛み。

既視感。

身体に絡みつくほどのそれは。

紅の奥の、情欲、という、熱。

あぁ、そうだ。










今夜はうだるような、熱帯夜。



end.

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