短編1
□目隠し鬼
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おにさんこちら
てのなるほうへ
「お?」
「あぁ?」
がやがやと賑わうとある居酒屋。
気まぐれに入ったそこで、土方に会った。
「チッ、嫌なヤローに会っちまったぜ」
目線をそらしながら想像通りの悪態を吐いてくる。つれないねぇ、なんて思いながらも、俺も売り言葉に買い言葉というヤツで。
「それはコッチのセリフだコノヤロー。たまたま入った店で、よりによってテメーに会うなんてよォ」
嘘だ。本当は僅かな期待があった。
幸か不幸か、俺と土方の思考回路は似ているらしく、以前もこんな感じに飲み屋で出会うことが何度かあった。
そういう偶然は、俺にとっては非常に有難いものなのだ。
カウンター席に座る土方の隣にさりげなく腰掛けながら、店員に「熱燗一つね〜」と声をかける。
土方は俺よりも少し早く来たのか、既に空となった徳利が2本並んでいた。
ほのかに朱の入った目元がどこか妖艶な雰囲気を作り出す。そんな状態で土方は横目で俺を睨みつけた。
「おい、何でここに座んだよ」
「しょーがねェだろ、他の席いっぱいなんだから」
正直、酔った土方が色っぽくてヤベーよ押し倒してーとか思ったりするのだが、ここはグッと堪える。
せっかく土方の隣に座ったのだ、絶対に離れてなどやるものか。
事実、思いの外店は賑わいを見せており、一人で来た俺が座れるのは土方の隣くらいしかなかった。
不機嫌を隠そうともせず土方は盛大に顔をしかめる。
「だったら他の店行け。ここは俺が先だ」
「なぁに言ってんの。俺がどの店に行こうが勝手だろーが。それとも何ですか、この店はお前の店なんですかー?」
「うるせえ、テメーと酒飲むなんざ胸クソ悪ぃんだよ」
「あーそーですか。でも残念、俺ァ別にそんなでもねェからよ。気にすんな」
少しあからさまだっただろうか。言って、チラリと土方を見遣る。
「はっ、何言ってやがんだ。まだ飲んでねェのにもう酔っ払ってんのか?」
どうやら、ほどよく酔いが回った頭には本気とは認識されなかったらしい。
鼻で笑われ、軽く流された。
その様子に僅かに安堵する一方で、それ以上に落胆している自分がいた。
まだ、土方は『俺』に気づかない。
「るせー。まぁとにかくアレだ、ここで会ったのも何かの縁っつーことで、楽しく飲もうや」
「ふん、知るか」
「ったく、気をつかってやってる銀さんの努力を無駄にすんじゃねェよ」
すると、おまちーと言いながら店員が先程注文した酒をカウンターに置いた。
ゆっくりとお猪口に酒を注ぐ。
「んじゃま、カンパーイ」
カン、と勝手に土方のお猪口と自分のを鳴らし合わせ、まだごちゃごちゃ言ってくる土方を無視してちびちびと熱い液体を口に含んだ。
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