短編1

□楔
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銀時はずるい。


そんな真っ直ぐに云われたら、俺はどうすりゃいいんだ。










「俺が死んだら、毎日墓に甘いもの供えてね」

いきなり縁起でもねェこと言ってんじゃねェよ。
テメーがそんなに簡単にくたばるタマか。

「でも、お前が先に死んでも、俺は何もしてやらねェから」

何だそれ。随分な扱いだな。せめて墓参りくれぇ来いよ。

「お前が死んだら、俺も死ぬから」






へらりと、いつもと変わらない調子で、そんなこと。





何言ってやがんだ。くだらねぇ冗談だな。

「銀さんマジだかんな」

ンなこと言って、ガキ共はどうすんだ。

「ん〜…」

ほら見ろ、死ねねェだろ。

「…じゃあ、今からアイツらに謝ってくるわ」

何を?

「『先に死ぬけど、ごめん』って」

オイオイ、自分勝手にもほどがあんだろ。
一応アイツらの保護者だろうが。

「アイツらなら大丈夫だよ。アイツらは、強いから」





先を見つめる瞳は信じている瞳。

色濃く残す、強烈なほどのそれは。

苦しいほどに深く、深く。






「だから、お前が死んだら俺も死ぬ」

「俺はお前なしで生きられるほど、強くねェ」

「生きられなく、なっちまった」

だが、お前が死んだら、ガキ共悲しむんだろうな。

「そうだろな〜。アイツら、何だかんだ言って俺のこと大好きだかんな」






嬉しそうにそう言う笑顔は本物。

渡された想いも、本物。






どっちかっつーと、お前ほっといたらとことん堕落していきそうだから、ほっとけねぇだけじゃねェの。

「そんなことないですー銀さん社会適応力バリバリありますからー」

うるせぇ黙りやがれ天パが調子ノってんじゃねーぞコラ。
マダオが社会適応力云々言える立場じゃねェだろ。

「ちょ、ヒドくね!?事実を述べたまでだろコノヤロー。つか天パは関係ねェだろがァァァ」






言葉の裏に見え隠れする想いを受け止めるには、俺はあまりに小さな器で。

ついはぐらかしてしまいそうになるけれど。

ちゃんと応えなくてはいけないということも知っているから。






…実際、俺の方が先に死ぬ確率高ぇよな。






儚く輝く人の命。

より一層儚い色を湛える己の命。

何時その輝きを喪うとも知れないのは、何時だって死を厭わないから。






「だから言ってんだって」

「そんな簡単に死なせてたまるかってんだ」






真っ直ぐに、ただひたすらに。

貫く意志は、ぴん、とはりつめて。

何時だって、俺の覚悟の先を行く。

本当は、言葉通りには決してならないだろうに。

悲しませることはないだろうに。






上等だ。






たとえ本当でなくとも。

それでも確かに伝わるから。

信じてみたいと、思えたから。

本当に、ずるい。






俺だって、簡単に死んでたまるか。
見てろ、絶対ェテメーより長生きしてやらァ。

「いーや、俺の方が長生きしてやる。んで、ジジィになったお前にも、『愛してる』って言ってやる」

…ごめんなさい俺が悪かったです勘弁して下さい。

「何でだよォォォ!?」






これから何度命のやり取りをするだろう。

それは途方もないほど続く現実。

そのたびに、きっとお前の言葉が縛りつけるんだ。

先回りをする、けれどひどく遠回りなお前の想いを背負って。

俺も、お前を死なせてなんかやりたくねェから。






「笑って、テメーの墓に饅頭でも供えてやるよ」

「言ったな、絶対ェだぞコノヤロー。嘘吐きやがったら許さねェからな」






形ない約束だけじゃあ物足りなくて。

代わりにそっと、手を握った。



end.

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