短編1

□『無題』
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※銀さんが若干鬼畜です。苦手な方はバックプリーズ。
大丈夫な方はお付き合いください。










もう、後には戻れないと、とっくに悟っていた。






「あぁっ、ん…はぁ」

奥へと突き上げる度、甘い吐息が絶えず土方の口から漏れ出す。
ゆらゆらと腰を動かし必死に快楽を貪る姿は、けれど無意識なのだろう。焦点の合わない真黒な瞳には、ぼんやりと俺の姿が映し出されている。
もう何度果てたか分からない。互いの汗やら唾液やら精液やらで、身体中がべたべたする。
同じくべたべたの土方の口が、はあはあと乱れた呼吸を繰り返す。
半開きになったその口を、噛みつくように塞いで呼吸を飲み込んでやれば、時々苦しそうな息と共に声が漏れた。

「ん、ふぅ、」

鼻から抜けるくぐもった声に欲情し、更に深く口付けた。舌をねじ込み、ねっとりと土方の舌を絡めとる。
くちゅくちゅと卑猥な水音が、上と下、両方から聞こえる。
暫くして口を解放してやると、酸素を求めて胸が大きく上下した。それを邪魔するかのように、再び強く突き上げる。

「んあ、あぁっ」

快感に溺れる声。
嗚呼、もっと、聞きたい。



土方が欲しい、と思う。
だが、溶けてひとつになりたい、とか。そんな生温い感情なんかじゃあない。
もっと黒く、どろどろとしたこれは。
汗も、涙も、声も、唇も、目も、髪も、手も、足も、血も、骨も、心臓も。
全部全部、ひとつ残らず、お前が欲しい。
そう願って仕方がない。
かつて人は、愛する死者との永続的な関係を保持するためにその肉を喰らったという。
お前の全てが俺の血となり肉となり。
そう、まさにそれこそ完璧!そうして初めてひとつと言えるのだ。

「あ、ア、うぁ…やぁ」

だが、まだまだ土方が快感に啼き、露に乱れる様を見ていたいと思う。生理的な涙と唾液で濡れた顔が、ますます俺の中の欲望を駆り立てる。
もっと激しく、狂おしく。いっそのことぐちゃぐちゃに壊して。
押し寄せる快楽だけをひたすらに求め続ける。

「ぁ…ぎん、と、きィ」

縋るように腕を伸ばしてくる土方には、もはや理性のカケラも見られない。その様子に何とも言えない優越感を覚えた。歓喜に思わず口許が歪む。
この行為の間は、俺だけが土方の全て。俺だけが、縛りつけることができる。
ならば離れられないようにどろどろにして。
何の生産性も持たない不毛な行為に勤しむのは、土方の中に俺を、俺の中に土方を刻み込むため。
物理的に無理ならば、その意識をめちゃくちゃに犯してしまおう。
嗚呼、なんという精神的カニバリズム!
そうしたところで、俺とお前は決してひとつになれはしないというのに!





形のいい鎖骨を丁寧に舌でなぞり、そのまま首筋へと這わす。
そして、皮膚の薄いそこにがぶりと噛みついた。

「痛っ…!」

与えられる痛みに土方が眉を寄せた。
口の中にじんわりと鉄の味が広がり、生臭い匂いがつん、と鼻をつく。
痛みに歪む綺麗な顔をもっと見ていたくて、僅かに噛む力を強める。
強くなった痛みに土方の顔が更に歪んだが、その痛みさえもじきに快感へと変わっていくのを知っている。だって、ほら。
血の滲む傷口をそっと舐め上げてやれば、

「んっ…」

切なげな声と共に、身体がびくりと反応している。

「やらしいなぁ、土方」
「っうる、せ、」

ニヤリと笑って耳元で囁けば、思いきり睨みつけられた。だが。
荒く乱れる呼吸、涙の浮かぶ目、赤く上気した顔。その全てが更に俺を欲情させる。
だから、本能の赴くままに強く突き上げた。

「ああっ!!」

嬌声が一層高くあがる。水音も律動に合わせて激しくなる。
どろどろにして、ぐちゃぐちゃに壊して、めちゃくちゃに犯して。それだけが、今の、全て。

「あ…も、やめっ…ぁ」

くらくらする。
この声を聞いていると、頭がおかしくなりそうだ。いや、もうとっくにおかしくなってしまっているのかもしれない。
こんなにも渇望する心は、どこかに穴が空いてしまったしまったかのように、空っぽのまま充たされることはない。
それでも求め続けて、手を伸ばして。
いつか、本当にお前を―――






「ぁあ、も、イクっ…」
「っひじかた」
「んあぁっ」

最後に大きく突き上げると、限界を迎えた土方が白濁を吐き出した。何度もイカされてたために大分薄くなっている。
それと同時に俺自身も強く締めつけられ、同じく大分薄くなった白濁を土方の中へと吐き出した。
ドクドクと脈打つ感覚を息を整えながらやり過ごす。
ちらりと土方を見遣ると、大きく息を乱し、ぼんやり虚ろな目で宙を見つめていた。その目に俺は映っていない。


ざわり。


背中を走る、あの、感情。
抑えられない欲望がどんどん膨らんでくる。
土方が欲しい。
止められない。止める気も、ない。



「っア、や、ぎんっ」

そうして再び快楽を貪り始める。充たされることはない己の心を充たそうと。
もう後には戻れない。
たとえこのまま何かが壊れてしまっても、俺にはただ求め続けることしか、出来ないの、だから。






そう、縛りつけられているのは、俺、自身。
もう後には、戻れない。



end.

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