短編1

□真夜中に贈るアイラブユー
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『テメーなんか、大っ嫌いだ』

………俺が一体何をした?










珍しく仕事が入っていた今日一日。
面倒くさいことにその仕事ってのが力仕事で、おまけに依頼主がこれでもかというほどこき使ってきやがった。
そのせいでどっからこんなに出てくんの?ってくらい体中汗が噴き出していた。
たぶん朝飲んでいったいちご牛乳全部出たよ、アレ。もしかしたら、それだけじゃ足りなくて別の体液的な何かまで出たかもしれねェ。
とにかく体の水分全部持ってかれるぐらいこき使われた。
何度も依頼主をしばき倒してやろうかと思ったが、なにせ一か月ぶりに入った久しぶりの仕事。
せっかく金が手に入るチャンスをわざわざ潰すわけにもいかねェ。そんなことしたら新八にいびり殺される。
そんなわけで、俺も普段なら絶対出さないやる気をしぼり出して頑張った。
だから家に帰る頃にはもうくたくたで、さっさと風呂に入って寝ちまおうと思った。
あの万年床がとてつもなく恋しかった。
「今日はアネゴと一緒に寝るネ!」と言い出した神楽を、家に帰る新八と一緒に送り出し、やっと愛しの布団に入ったのが夜の10時過ぎのこと。
疲れきっていた体は欲望に忠実で、布団に入った数秒後には意識なんてなくなっちまった。
あぁ…幸せ、と、意識を失う直前に思ったことだけは覚えている。



それからどのくらい時間が経っただろうか。
ふと、遠くでジリリリと何かが鳴る音がした。
聞いたことのあるその音は、果たして仕事机の上に置いてある電話の音だった。
体はまだ睡眠を求めている。鳴り続ける電話なんか無視して再び夢の中へと旅立とうと、布団を頭まですっぽり被った。
電話は一向に切れる気配を見せない。必死に自分の存在をアピールするかの如く鳴り響く。
無視だ無視。俺ァ疲れてんだ。いっそそのまま永眠するくらいの勢いで眠りてーんだ。いや、やっぱ永眠は嫌だな。
だが、無視しようとすればするほど、音はさらに大きく頭に響いて仕方がない。
だんだんイライラしてきて、ますます意識がはっきりしてしまった。

「…っだぁもうっっ!!!」

いい加減我慢できなくなり勢いよく布団から出ると、がらりと襖をあけて乱暴に受話器を取った。

「こんな夜中に一体誰ですかコノヤロー。安眠妨害で訴えるぞ」

いかにも不機嫌な声だと自分でもわかる。だって、一日肉体労働して疲れてるんだ。とっとと布団にくるまって眠りてーんだ。これくらいの態度は許されるだろう。
だが受話器の向こうから聞こえて来たのは、思ってもみない人物の声だった。

『銀時か?』
「…土方?」

思いがけない土方からの電話に驚く。だって、普段俺から掛けることはあっても、土方から掛ってくることは滅多になかった。
一瞬夢かと思った俺の気持ちもわかって下さい。

「お前から掛ってくるなんざ珍しいこともあるもんだなぁ。どした?」

さっきとは打って変わって口調が穏やかになる。わかりやすい変化に自分でも笑ってしまう。
好きなやつから電話が掛ってきたら、そりゃ嬉しくもなるっつーの。

『銀時…』
「ん〜?」

のんびりと先の言葉を待つ。心なしか弾んでしまったが気にしない。
だが次の瞬間訪れたのは。


『テメーなんか、大っ嫌いだ』


俺の幸せをぶち壊すには十分な威力を持った言葉だった。
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