短編1

□飴玉ひとつ、想いをのせて
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*「とある〜」後日談





誰だ、なんて、確かめなくてもわかった。



「…何しに来やがった」
「ん〜、夜這い?」

そう言って笑う男は、銀色に輝く三日月を背負って現れた。






昼間はポカポカと暖かいが、夜はまだ少し肌寒いこの季節。
開けられた戸からは冷たい風が吹き込み、机の上の灯りが揺らめく。
手元の書類に落とされた影が、灯りにつられて僅かに揺れた。
机の上にはまだまだ沢山の書類が山のように積み上げられている。始末書、報告書、請求書などなど…。
嫌がらせとしか思えないその山は、栗色の髪の青年が主に作りあげたもの。
灰皿の中には、二箱分はあろうかと思えるタバコの亡骸が積み重なっていた。

「仕事の邪魔だ。帰れ」

一枚一枚書類に目を通しながら、土方はいまだ背後の戸に寄り掛かっている銀時に言い放った。
疲れのせいかいつもより覇気がない声に、溜息をこぼす。
この土方十四郎という男は根っからの仕事人間だな、と銀時は思う。いや、あの上司にあの部下じゃあ、仕事人間にならざるを得ないか。
普段町で出会った時の反応を見る限り、本当はこの男も上司や部下達と同じく身体で動くタイプなのだろう。
だが、なまじ他の隊士達に比べ頭が良い分、肉弾戦に加え戦略など頭を使う仕事も多く任される。
おまけに若くして真選組副長という立場に立つ身である。
隊士達の模範となるべき存在であり、時にはブレーキを掛ける存在でなければならない。
『責任』という言葉が、見た目よりも細い肩に重く圧し掛かっている。
その重さに押しつぶされぬよう常に気を張り続けているのだろう。たまにそれが、銀時には無茶に思えるのだけれど。
まぁーた無理しちゃって。再び重たい溜息がこぼれる。
その間も土方は銀時には目もくれず、左の山から右の山へと手を動かし続けていた。

「相変わらず真面目だねぇ副長さんは。せっかくの夜這いが失敗しちまったじゃねェか」
「そりゃ残念だったな。なら、さっさと帰れコノヤロー」
「いやいや、客には茶の一杯でも出せよ」
「誰が客だ。邪魔しに来ただけだろうが」
「仕事で疲れてる土方クンのために、わざわざ愛しの銀さんが来てやったんだろーが」
「来てくれなんて頼んだ覚えなんざねェ」
「あ、『愛しの』は否定しねーんだ」

ぴたり、と動き続けていた土方の手が止まった。背中からいかにもドス黒いオーラが溢れ出ている。
身動き一つで直ちに切って捨てられそうな空気が漂っていた。
あ、ヤバイ?と銀時はのんびり思ったが、ここはもう開き直ることにする。

「…本気で殺されてェのかテメェは」
「今のお前だったら、銀さん余裕で勝っちゃうよ?」
「ッふざけ…!!!」

挑発とはわかっていても、身体が反応してしまう。土方が勢いよく振り返った時、唇に冷たいものが触れた。
離れたところにいたはずの銀時の顔がいつの間にかすぐ目の前にあった。
一瞬のことではあったが、それが銀時の唇だと理解するのにたっぷり数秒はかかった。離れていく顔をぼんやり眺めながら、微かに残る唇の感触を確かめる。

「…疲れ、取れた?」

ニンマリと笑う顔は、銀時の背後に浮かぶ三日月のようだ。
あれだけ身体を重くしていた疲れが、気づけば僅かに取れているように思えた。
絆されている。
認めたくはないが、事実には変わりない。「あんま無茶すんなよ〜」と頭を撫でてくる銀時に悟られぬよう、土方は「…うるせぇ」と目をそらした。
何が楽しいのか銀時はずっとにこにこ笑っている。だがやられっぱなしも気に食わないので。

「…おい」
「ん〜?」

ぐいっと銀時の服を掴み、今度は自分から口付けてやった。それと同時にその口にあるモノを押し込んでやる。
いつかの仕返しもついでに込めたそれは、簡単に銀時の口内へと移された。

「っ何、これ!?」
「ひと月前の仕返しだ」

目を見開いた銀時の顔に、してやったり、と土方は笑いをこぼす。
暫くあっけに取られていた銀時だったが、すぐにあの三日月のような笑顔で土方に抱きついた。

「待ちくたびれちまったよ」

恥ずかしそうに背中に腕を回す土方を強く抱きしめながら、銀時は口の中の甘さを噛みしめる。
心底嬉しそうな「さんきゅ」という銀時の言葉に、ただ「おう…」と小さく返す。
まだ残っている仕事は明日にまわそう。
今はただ疲れを取ろうと、土方は背中に回した腕に力を込めた。















〜オマケ〜

「っっ辛!!!!何これ!!??」
「今人気の『甘辛キャンディー』だ。甘さの中のピリッとした辛さが癖になるらしいぜ」
「全っ然ピリッじゃねーよ!!何その思わせぶり、何の罰ゲーム!?」
「いわゆるツンデレってやつだ」
「違げぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」



end.

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