短編1

□おやすみ
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※土方さんが乙女です。苦手な方はバックプリーズ。
大丈夫という方は、お付き合い下さい。

b-Acid.の仄さんに捧げます。



















何とはなしに、四方八方に跳ねまくる目の前の銀糸にそっと触れる。
くるくると自己主張の激しいそれは存外柔らかく、まるで毛並のいい猫を撫でているかのようだ。
指に絡ませてはほどき、また絡ませてはほどく。
意味のない行為を繰り返し、柔らかな銀糸に触れ続ける。
晴れの日には光を受けてキラキラと白く揺れ、その眩しさに目を細めたこともある。
雨の日には鉛色の空と同じく、僅かにくすみを帯びて重たく垂れることも知っている。
陽が傾き、夜の帳が降りる頃、鮮やかな夕焼け色から次第に薄紫へと変わってゆくグラデーションを映し出すそれを、愛しいと思った。
どんな色をも美しく映す銀色。
けれども決してその色が侵されることはない。
全ての色を、映して、包んで、抱えこんで。
それはまるで、この男の魂そのもののようだ。
鋭く光る銀色を持つその男は、のんきに夢の中を漂っている。
規則正しく上下する身体に、ふわふわと揺れる髪。
顔を覗き込んでみれば、幸せそうに眠る男のまつ毛が意外に長いことに気がついた。
そんな小さな発見に、不覚にも満足している自分がいる。
癪ではあったが、たまにはいいか、とらしくもなく思ってしまったり。
それでもやはり悔しいので、揺れる銀糸を少し乱暴に撫でた。

「んん…」

擽ったいのか、眠り続ける男は身体をよじらせてこちらに擦り寄ってくる。
眉間に皺を寄せてぐずる様子が面白くて、何度も何度も指に絡ませていたら―――

「…そんなに俺の髪触るの、楽しい?」
「う、おっ!?」

ふいに髪をもてあそんでいた手を掴まれ、強い力で引き寄せられる。
そしてぎゅっと抱き抱えられてしまい、身動きできなくなってしまった。

「っテメ、起きて…っ」
「あんだけ触られたら、そりゃ起きるっつーの」

羞恥で身体中の血液が一気に顔に集まった。男の目に、赤く熱った自分の顔が映っている。
そして、ちゅっと男の唇が額に触れさらに強く抱きしめられると、フワリと甘い匂いが鼻についた。甘いものを好む男に染み付いた香りと、自分より少しだけ高い体温。
トクントクンと聞こえる鼓動に僅かな安心感を覚え、自然と瞼が重くなる。
ぼんやりと、あぁ、幸せかも、と思ってしまう自分は、相当に重症なのだろう。
夢と現実を行き来する意識を引き留めるのも億劫で、いっそ手放してしまおうと思った時。

「ホントに土方は俺のことが好きだねぇ」

まるで幼子をあやすように優しく頭を撫でられた。くつくつと楽しそうに笑う声は、けれどとても柔らかくて穏やかで。
それがあまりにも心地良かったから。
眠気ついでに再び柔らかな銀糸を数本指に絡ませ、

「いっっっ!!?」

そのまま思いっきり引っ張ってやった。
ブチッといい音がしたが、聞かなかったことにする。

「ちょっおまっ何てことすん―――」
「あぁ」

そして、あげられた抗議の声を遮って、

「好きだぜ、銀時」

ニヤリ、と銀糸の絡まった左手の薬指を男の目に映しながら言ってやった。
涙のたまった紅い目をいっぱいに開いた顔は、とんだアホ面だ。だがそれすらも愛しいと感じてしまうのだから始末におえない。
本当にらしくないなと思うが、それは自分を包む甘い香りと、男の温もりがもたらす眠気のせいにしよう。
そう思い、いよいよ限界を迎えた意識を手放そうと目を閉じた。

そして、規則正しく聞こえる寝息と、耳まで真っ赤になった男の「ずりぃ…」と呟く声が、まだ薄暗い部屋へと消えていった。



end.

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