短編1

□Holic
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何度も何度も繰り返し、熱い吐息と共に直接耳へと流しこまれる。
じわじわと内部を侵されていく感覚。
男の口許には柔らかい、穏やかな笑みが浮かんでいる。
その口から絶えずソレは生みだされていた。
感じるのは、男の声と、体温。
熱に浮かされた身体では、もう他の何をも感じられなくて。
自分の思考さえ分からなくなる。
口からは抑えきれなかった声が絶えず漏れている。
余裕の一欠けらも残っていない自分が、酷く情けないものに思えた。
だから、頼りなさ気に伸ばした手をその背に回し、爪を立てた。
問答無用で自身を侵食する男への、僅かばかりの仕返し。
それと同時に、少しでも自分を刻みつけてやりたいという幼稚な我が儘。
自分だけが滅茶苦茶にされるのは癪だった。
小さな痛みに微かに顔を歪めた男を見、何とも言えない満足感を覚えた。
だがそれも一瞬のこと。

「―――ッア」

身体の中の熱が、激しく欲望を貪り始めた。
耳を塞ぎたくなるような水音が男の律動に合わせて激しさを増す。
自然と身体がその律動を求める。
飛びそうになる意識を何とかつなぎとめて男の顔を見やれば、情欲の色を強めた深い紅色とぶつかった。
さっきまでの穏やかさはすっかり消え、挑発するようにこちらを見ている。
そして、また男の口が動き、

「――土方」

低く、流し込まれる。何度も、何度も。
頭の奥が痺れるようなソレに、何もかもが奪われていく。
もう、何もいらない。
そう思わせるほどに、男は自分を侵していくのだ。

「ひじかた、」


好きだよ。




この身を焦がす麻薬は銀色。
紡ぎ出される言葉は、甘い、毒。



end.

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