短編1

□僕は君のカケラに手を伸ばす
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強い衝撃とともに僕の胸にぽっかりと穴が開いて
君が最後に告げた言葉だけが頭の中で響きわたっている
君の黒が僕の中を、どろどろに染め上げていく
そして君はその色に紛れ込んで、僕のもとから離れていった



冷たい月の下で、肌に触れて、口付けて、抱きしめあった夜
ああ、あの夜はもう僕のものではないんだね、と
思い出すたびに心が焦げ付く
こんなにも夜は長かったっけ?
そんな想いを見ないフリをしようと、あの歌を口ずさんだ



ふと窓辺に目をやれば、気まぐれに君が買ってきた花が揺れている
光に照らされ続けた花びらが、ひからびて落ちた
まるで今の僕のようだ
いっそ君に会いに行こうか、なんて
汚い想いだけが頭の中をめぐっている



あの思い出だけが僕の中で輝き、その眩しさに目がくらんでしまう
その光のなかに君を見つけては、見失う
全ての色が奪われ、僕はただ『白』の中に取り残された
君と同じ体温、匂い、想いで振り返る日々に
ちっぽけな僕のプライドも崩れていくんだ
ラジオから流れてくるあの歌が、そんな僕の胸を刺した



君が僕の部屋に忘れていった物が、僕を縛りつける
あの頃撮った写真は、あの時のまま時間を止めて
二人でよく聴いたあの歌を、今僕は一人で聴いている
すべてこうなることを初めから知っていたのだろうか?
その問いは、メロディーの中に溶けて、消えていった



僕は

君のカケラに

手を伸ばす



end. 〈『LOVE SONG』〉

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