短編1

□君の街まで
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じりじりと、夏の日射しが照りつける。
ヘルメットの中はまるで蒸し風呂。
吹きつける風は、涼しくも何ともない。

それでも僕は、君に逢いに行く。



俺と土方は高校で知り合った。
最初の印象はそりゃもう最悪で、絶対仲良くなんてなんねェんだろうな、なんて思ってた。
ところがどう道を間違ったか、学校ではいつもつるんでいたし、お互い一人暮らしで、家を行き来するようになり。
そしていつの間にか、『コイビト同士』なんてモンになっていた。
なぁんでそうなったかなぁ。今思えば不思議でしょうがねェんだが、俺は今アイツにベタ惚れなもんで。
今更そんなこたぁどーでもいいんだ。
卒業後、俺は就職、アイツは隣の県の大学に進学した。
プチ遠距離ってヤツ?
お互い忙しくて(まぁ俺はたまに仕事サボってたりすんだが。よくクビになんねェな)、会える時間もほとんどなくなっちまった。
せめて週末は一緒に過ごそうと思って、俺は今バイクを走らせてる。
正直、この季節は暑ィからバイクなんて乗りたくねェ。
ただ電車に乗ると、アイツのトコまで片道360円もかかんだよ。
交通費もバカになんねェんだよ。財布の中は常に吹雪いてんだよ。
それでも最初の頃は電車に乗ったりしてたんだが、チリも積もればなんとやら、で。
銀さんちょっと、泣きそうになっちゃった。
そういうワケで、俺はバイクに乗っている。俺って健気。
え?じゃあ土方に来てもらえばって?
いやいや、俺ァ会いに来られるよりも会いに行きたいの。
追いかけられるよりも追いかけたいの。愛されるよりも愛したいの。
ん?イヤ、やっぱ愛されるのもいいな、うん。
それに、家に迎えてくれるアイツの、あの顔が好きなんだ。
照れくさそうで、嬉しそうで、優しい、顔。
それだけで疲れなんて、どっかに飛んで行っちまう。
可愛いんだよ、ウチの土方は。…こんなこと言ったら殺されそうだから言わねーけど。
あぁ、早く、逢いてぇなチクショウ。


見上げると、空はどこまでも青く、入道雲がもくもくと流れている。
それ以外には何もなく、昼間の月すら見えない。
じりじりと、夏の日射しが照りつける。
ヘルメットの中はまるで蒸し風呂。
吹きつける風は、涼しくも何ともない。
君のいる街までは、あと少し。


今日も暑くなりそうだ。



end. 〈『ガソリン』〉

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