短編1

□A JACK IN THE BOX!!
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相互御礼。『GIOIELLO』の楠さまに捧げます。




「あ?あぁ、フラれた」

じりじりと日射しが肌を焼く昼休みの屋上で、苺オレを片手にクリームがたっぷり詰まった菓子パンを頬張る坂田があっさりと言った。

「…またかお前」
「『思ってた坂田くんと違う』ってさ」
「これで何人目だよ」
「ん〜、今年になって5人くらい?」

パンを咀嚼し、苺オレをズルズルすすりながら面倒臭ェと言う。見てるだけで口の中が甘ったるくなるそれに眉を寄せた。
去年からツルむようになって知ったのだが、面倒臭ェが口癖で常にやる気がないくせに坂田はモテる。
まあ顔もどちらかと言えば整っている方(もっと目と眉を近づけて黒目を大きくすればだが)だと思うし、おまけに銀髪天然パーマという目立つ容姿も手伝ってか、女子たちは坂田にあらぬ夢を見るようだ。
坂田は坂田で告白されれば二つ返事でOKするものだから、隣には常に女がいる。
だが大抵そいつらは坂田のやる気のない性格や態度を知った途端、イメージと違うと言って別れを切りだすそうだ。
それを悲しむ風もなく、坂田はこれまたあっさりと別れを受け入れる。

「俺のことよく知りもしないで『付き合って下さい』っつーくせに、勝手だよなぁマッタク」
「どうせすぐ別れんだから付き合わなきゃいいだろうが」
「だって、下手に断って面倒になるのが面倒臭ェしよォ」
「サイテーだな」
「ドウイタシマシテ」

いや使い方間違ってるからソレ、というツッコミはペットボトルのお茶と一緒に飲み込んだ。
来る者拒まず、去る者追わず。
坂田の人付き合いは女子に限らずそう。基本的にいつも一人だ。その方がコイツにとって楽なのだろう。
ただ、坂田は何故か俺にだけは自分から近寄ってくる。俺の何処がこいつに気に入られたのか知らないが、まあ俺も別に苦じゃないから好きにさせている。
それはクラスが分かれた今年になっても変わることなく、昼休みは大抵2人で昼飯を食べている。
坂田が俺以外の特定の誰かと一緒にいるところを、俺は見たことがない。

「まあ俺ァオメーといる時が一番楽だから、とりあえずこのままでいいや」
「俺はお前を見てると暑苦しい。今の時期は特にな」
「それ俺の髪のこと?主に髪のことだよねそれ?」

だから、糖分とジャンプ以外に執着を見せない坂田が俺にだけはこだわるということに、なんだか胸の奥がむずむずしてしまう。
ひでェと嘘泣きする坂田を無視して玉子焼きを口に運んでもぐもぐと口を動かし、むず痒さをごまかした。
昼休みの時間は限られている。さっさと弁当の残りを食べてしまおうと、マヨネーズが綺麗にたっぷりかかったウインナーに箸を伸ばした時、ふいに横から視線を感じた。
今屋上にいるのは俺たち2人だけ。その視線が誰のものかなんて考えるまでもない。
一体何だと顔を向けたが坂田は相変わらず気だるそうで、けれど視線はそらされることなく、じぃ、と俺の目を捕らえていた。

「…なんだよ」

無言の視線にどことなく居心地が悪くなって、思ったより憮然とした声が出た。
すると坂田は2、3度瞬きをした後、視線を前に移して再びパンに囓りついた。

「別に、何でもねー」
「人の顔をあんだけ見つめといて何でもねーこたァねーだろが。さっさと言えよ」
「だから何でもねェって。オメーの嫌味なさらさらストレートがムカついただけだって」
「何が嫌味だコノヤロー勝手にひがみやがって。恨むなら天パに生まれた哀れな自分の運命を恨むんだな」
「うっせェェェ!哀れなとか言うなや!天パの苦しみを知らねェオメーに天パの何が分かるってんだ!」
「ごちゃごちゃとしつけぇんだよ!そんなに天パが嫌ならいっそボウズにでもなりやがれ!なんなら俺がむしり取ってやろうか今すぐに!?」
「あだだだだ!?ちょ、やめっ…ハゲる!ハゲるからそれぇぇぇ!普段は言うこときかないひねくれ者でも、なくなったらそれはそれで悲しいものなんだよ土方クンんん!」

好き勝手跳ねまくっている銀髪を鷲掴んで思いきり引っ張ってやると、坂田はお願いだから離して!と叫んだ。
いくら屋上に俺たちしかいないとはいえ、耳元でもろに騒がれては五月蝿くて仕方ない。
これみよがしに舌を打って手を離すと、坂田はひでェ、と恨みがましい視線を寄越した。今度こそは本当に涙目だ。ざまあみろと鼻で笑ってやる。
頭をさすりながら苺オレをすすり上げる坂田。空になったらしい紙パックがべこりと音をたてて凹んだ。

「あ〜あ、『無口で超クールな土方クン』が、実は喧嘩っ早くて口が悪いただのマヨネーズ馬鹿だなんて知ったら、ほとんどの女子がショックでぶっ倒れんだろーなぁ。詐欺だよそりゃ」
「テメーが言えた義理か。つかマヨネーズ馬鹿にすんなコラ」
「え、反応すんのそこ?」
「俺のこたぁ何と言おうが構わねーが、マヨネーズを馬鹿にすんのだけは死んでも許さねェ」
「うわ、そこまでかよ」

本気で引きぎみの坂田を尻目に、先ほど食べ損ねたウインナーを口に含む。
マヨネーズの酸味にウインナーの肉汁が絡みあって絶妙な味わいを生み出している。最高だ。

「マジで詐欺だな。そのマヨネーズの塊、オメーのファンに見せてやりてェよ」
「好きでもねーヤツに何て思われようが知ったこっちゃねェ」
「お前はそういうの全部断ってるもんな。何、実は本命がいたりすんの?」
「あ?いねェよンなの」

相槌を打って、ごくりとウインナーを飲み込む。次は何を食べようかと、おかずの上で箸をさ迷わせた。
自慢じゃないが、俺もそれなりに告白されることが多い。と思う。
だが俺は坂田とは反対に、受けた告白は全て断っている。もちろん好きな女子がいるわけではなく、単に面倒臭いからだ。
それにさっきの坂田の言葉を借りるなら、俺も坂田といる時が一番楽なのだ。
くだらないやりとりや喧嘩が気を使わなくて純粋に居心地が良かった。

「ふうん。でも土方って本命がいたとしても、何もできずに影からこっそり見てるだけっぽいよな」
「ンなストーカーまがいのことするか。俺ァオトモダチからお願いして正々堂々告白するタイプだ」
「オトモダチからとか回りくどいんだよ。ま、土方クンはヘタレだから仕方ないか」
「誰がヘタレだゴラァ!テメーの方がストーカータイプそうじゃねーか!このヘタレ野郎!」
「ンだと!?俺だってその気になりゃ好きなヤツに、……」
「…坂田?」

突然何かに気づいたように坂田が言葉を切る。
不審に思って声をかけると、今度はしまったという顔で俺から目をそらした。
らしくない坂田の様子に首を傾げた時、ふと浮かんだある答え。

「…お前もしかして、好きなヤツがいるのか?」



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