短編2

□足跡
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大切なものがあった

まだガキで、『大切』という感覚すらよく分からない内に、あっさりとそれを失くした




理不尽な日々を生きていたある日、変な男に拾われた

何を考えているのか全く分からないその男に、『大切』とはどういうものかを教えられた




暫くして、変なヤツらと出会った

毎日懲りずに道場破りに来ていたヤツらが何時の間にか馴染んでいて、俺自身もそんな日々にあっという間に慣れてしまって

『大切なもの』が、二つ、になっていて




何時しかそれらは、『護りたいもの』になっていた




ある時、『護りたいもの』の一つが奪われた

沢山のものを失いながらも取り戻そうともがいていたけれど

結局、『護りたいもの』を護るために、それら全てを失くしてしまった






だからもう、そんなもの、二度と持つまいと思って、いた






ある雪の日、一人のバアさんと出会った

固くなった饅頭を頬張った時、俺はまだ生きているのだと実感した

まだ何かを護れる腕があることを、思い出した

だから、ただの石くれとなったバアさんの旦那に、今度こそはと、誓った




ある日、地味なツッコミ眼鏡とその姉(メスゴリラ)に出会った

ある日、宇宙からやって来た怪力大食い娘と出会った

ある日、そいつがバカでかい犬を拾ってきた

ある日、昔馴染みのへっぽこテロリストと再会した

そのままなんやかんやでチンピラ警察共とやり合う羽目になった




ある日、一つ
ある日、また一つ
ある日、さらに一つ






気づけば、過ごしてきた何でもない日常は、もう二度と持つまいと思っていたもので溢れかえっていた






重くて仕方ないそれらだが、背負うことは苦しくはなかった

けれど、背負うだけ背負って、それでもまだ、誰かに背負われる覚悟なんて出来ていなくて

ただただ、もう二度と失くしたくないと願っていた

そして失う痛みや苦しさを知っているから、誰にもそんな思いをして欲しくなくて

臆病者の俺は、自分のエゴを押し付け、またそれらを捨てようとしていた

そうしたらアイツらは、絶対に離してやるもんかと胸ぐらを掴んできた

アイツらにとっても、俺は『護りたいもの』であるのだと

誰かの何かを背負うということは、誰かに何かを背負われるということなのだと怒鳴られて

いい加減逃げていないで観念しろ、と思い切りぶん殴られた

ああ、情けない

こんなガキ共に、そんな当たり前のことを教わるなんて、情けなさすぎて、笑うしかない

だから笑い飛ばしてやった

笑い飛ばして、覚悟を決めた

『護る』ために、『護られる』覚悟を

俺が背負ったものを、勝手に半分背負おうとするそいつらを信じて、背中を預けた

ずっと一緒にはいられない

また失ってしまうかもしれない

それでも、何時来るかも分からない「何時か」を恐れるなんて馬鹿らしいことは、もう止めた

足掻いて、藻掻いて、縋って、しがみついて、笑って、怒って、泣いて、叫んで

落としそうになろうが、失くしてしまいそうになろうが、意地でも掴んで離さない

誰かが何かを失くしそうになった時は、俺が一緒に背負ってやる

手が届かず零れ落ちてしまったものは、アイツらが俺の代わりに拾い上げてくれるから

だから、俺は、俺達は、これからも『護りたいもの』を護ることが出来るから






「行くぞ、テメェら」






今度こそ、『護りたいもの』を、護り抜くために




沢山の足跡と共に、歩いていく






(人の一生は)

(重き荷を負うて)

(遠き道を往くが如し)



end.



***

59巻を読んで、2巻で銀さんが言ってた言葉を思い出しました

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