短編2

□以心伝心ラプソディー
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コタツに足を突っ込んで、家族一堂みかんを食べながら紅白を見る。正直最近の歌には全く興味がないから、どの歌も同じにしか聴こえない。
俺は紅白よりもガキ使派なのだが、今日、テレビのリモコンの主導権は親父にある。理不尽な権力に欠伸が止まらない。
ステージではライトを浴び、きらびやかな衣装を纏った歌手や司会者が年の終わりを口々に告げていた。
時計を見ると、時刻は23時40分すぎ。あと20分程で、今年が去年へと変わってしまう。
新しい年を迎えるという、どこか浮足立った雰囲気の中、頭に思い浮かんだのは愛しい恋人の顔。
さすがに一家団欒の邪魔をする気はないが、新しい年を迎える特別な日。やっぱり逢いたいなぁとか思ってしまうわけで。

(今頃アイツ、何してるかなぁ…)

今の俺みたいに、アイツも俺のこと考えてくれてたらいいなぁと思ってみたりする。もしアイツが「逢いたい」と言ってくれれば、俺は迷わず逢いに行く。
けれど、あのツンデレの申し子がそんなことを言うはずはないだろうし、逆もまた然りだ。俺から逢いたいと言っても、家族の手前、恥ずかしがって中々出てきてはくれないだろう(でも優しいヤツだから、めちゃくちゃ頼めば結局逢ってくれると思う…たぶん)。
早く明日になって、逢いに行きてぇなぁ。ため息をひとつ。時刻は23時50分前。新しい年は目の前だ。
その時、止まらない欠伸を噛み締めていたら、手元のケータイがブルブル震え、メールの着信を俺に知らせてきた。
気の早い同級生がもう年賀メールを送ってきやがったのかと受信ボックスを開いた瞬間、宛名の文字に目が釘づけになる。
それは、今の今まで俺の頭の中を占めていた恋人の名前で。
急いでメールを開いて内容を読む。



『From:土方
Sub:無題
本文:
お前の家の近くの公園にいる。来れるか?』



「っ!」
「銀時?ちょっとどうしたの?」
「こ、コンビニ行ってくる!!」

急に動き出した俺に、驚いた母さんが声をかける。とっさに嘘をついて、家族の視線を背中に浴びながらリビングを出る。
自分の部屋から上着とマフラーを引っ掴み、ドタバタと五月蝿い音を立てながら玄関を開け、そのまま全速力で走り出した。
この時間、いつもなら街灯だけが照らす静かな道は、どの家にも灯りがついているため少し明るい。
冷たい空気が肌を刺すけどそんなものは全然気にならず、ただひたすら公園に向かって、雪のちらつく住宅街を走り続けた。
そして漸く公園の入口に辿り着いて中を見渡せば、ブランコの冊に腰かけるアイツの姿を見つけた。

「土方っ!」

名前を読んで、駆け寄る。
すれば土方は顔を上げ、「よォ」と小さく言った。
俺も軽く息を整えてそれに答える。

「悪ィな、いきなり呼び出しちまって」
「いやいや、全然だいじょぶだいじょぶ」
「つかンな走って来なくても良かったのに」
「だって、土方に呼ばれりゃ、そりゃアレだろ、もう走るしかねーだろ」
「なんだそれ」

冊に腰かけると、土方がコートのポケットから缶のおしるこを取り出し、ほら、と俺に差し出した。
サンキュー、と受け取って口をつける。少しだけ温くはなっていたが、土方の温もりが伝わるみたいに俺の身体を暖めた。思わずほう、と息を吐く。
隣の土方も、コーヒーを飲んで白い息を吐き出した。鼻の頭が寒さで少し赤くなっていた。

「で、どしたの?」
「ああ、うん…ちょっとな…」

すん、と小さく鼻をすすり、何とも歯切れの悪い返事をする土方。らしくない様子を不思議に思うが、とりあえず次の言葉を待ってみる。
すれば土方はケータイのディスプレイを確認し、俺を振り返った。

「明けましておめでとう、坂田」
「へ?」

呆けた声を上げた俺に、土方はケータイのディスプレイを俺に見せた。その画面に記された時刻は、午前0時1分。日付は新しい年と月を示していた。

「あ」
「何だよ、今気づいたのか?」
「いや、ほんの5分前までは覚えてたんだけどね?お前に呼び出されたので全部飛んでった」
「アホだな。さすが天パだ」
「天パ関係ねーだろうがァァァ!!何それ、頭がパーだとでも言いてぇのか?天パのパはパーマのパだからね!?」
「パばっかでわけ分かんねーよ」
「ったく、オメーから呼び出すなんざ滅多にねーからビックリしたんだよ」

逢えて嬉しいんだけど、土方が何を考えてるのかよく分からない。小さく笑う土方を横目で睨みつつ(可愛いなチクショー)、短時間ですっかり冷たくなってしまったおしるこを飲み干した。
不機嫌を隠さず、土方に問いかける。

「何、この寒い中それ言うために呼んだの」
「まあそうだなっつーか何と言うか…」
「何と言うか?」
「せっかくだし、お前に一番最初に言ってやろうと思ったんだよ」
「何で?」
「何でって…それは…」
「だって電話とかメールがあんのに、寒みぃ中わざわざここまで来てくれただろ?何でだよ?」

また歯切れの悪くなる土方の顔を覗き込む。すると土方は目をそらして顔を赤くした。
きっと寒さのせいだけではないそれ。自然口の端が持ち上がっていく。
言い淀む土方を追い詰めるように身体を寄せる。

「なあ、何で?」
「〜〜〜っ、お、お前に、逢いたかった、と、か…」

完全に顔をうつ向け、だんだん小さくなっていく声は、けれど静かな公園、しかもすぐ隣の俺の耳にはっきりと届いて。
一番聴きたかったその言葉に身体がじんわりと暖かくなる。それは、さっき飲んだおしるこよりも深く深く心を暖める。
嬉しくなって、コーヒーの缶を弄ぶ土方の手をそっと握る。そして弾かれたように顔を上げた土方の唇に、触れるだけのキスをした。
ぱくぱくと口を開閉する赤い顔に、にししと笑顔を向けて言葉を紡ぐ。

「明けましておめでとう」
「…おう」
「俺も逢いたかったよ」
「そーかよ」

ふい、と顔を背ける、普段なら可愛いくない仕草も、照れ隠しだと分かっているから愛おしい。
だから、さっきよりも深く染まったその頬に、もうひとつ優しいキスを落とした。



(で、姫初めはいつするよ?)

(死ね変態)



end.

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