短編2

□嘘つきジキルと泣き虫ハイド
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※幕土前提、銀→←土。2人とも救われてません。苦手な方はご注意願います。










嘘を吐いた



『テメェのことなんざ、知ったこっちゃねェんだよ』



数え切れない程嘘を吐いたけれど、それは俺の心に残った唯一の嘘になった



『二度と俺の前に現れるんじゃねェ』



哀しそうに苦しそうに歪んだお前の顔が、頭の中から消えてくれない



『俺はテメェのことが、大嫌いだ』










好きだ、と

眩しい銀色を持つ男が俺に言う

今まで見たことないような必死な顔が、それが決して都合の良い夢なんかではないことを教える

嬉しかった

ずっと、ずっと見ていた

決して悟られまいと、何度も何度も嘘で塗り固めて

知らぬ間に芽生えていた不毛な想いを必死に押し殺して、ただ遠くからずっと見つめていた

叶うはずのなかったこの想い、けれど本当は届いて欲しいと心の何処かで願っていた

だから、お前も俺を想ってくれていたと分かって、本当に嬉しかったんだ

お前が差し出してくれた手を握り返せば、俺たちは倖せになれる

二人で、倖せ、に、なれる

けれど

ごめんな、駄目なんだ

ぎゅっ、と拳を握り締める

痛い、嗚呼、これは夢なんかではない



『テメェのことなんざ、知ったこっちゃねェんだよ』
『二度と俺の前に現れるんじゃねェ』
『俺はテメェのことが、大嫌いだ』



嘘を吐いた

残酷な嘘を、たくさん吐いた

心が悲鳴をあげて痛んだけれど

勘違いしそうになるから

だって、仕方ないだろう?

こんなに"汚れた"俺は、お前の隣にいちゃいけないんだ










「真選組副長土方十四郎、ただ今参りました」

名前を名乗れば、厳重にセキュリティされた扉が静かな音をたてて開いた。
その奥へと続く長い通路へ足を踏み出す。すれば扉は再び閉ざされ、俺は暗い暗い通路に閉じ込められた。
足下を照らすのは小さなライトだけ。僅かな灯りを頼りに随分通い慣れたその通路を迷いなく歩き出す。
まるで終わりが見えない暗闇の中、甦るのは、好きだと言った男の声。
それと、最後に見た、男の傷ついた顔。
胸の奥が締めつけられて、苦しくて、痛くて、哀しくて、もう一度小さくごめんと呟いて。
伝い落ちた醜い雫をぐい、と拭い去った。



3つ目の角を曲がって直ぐに現れた、扉。その前で立ち止まればカチャリと鍵の開く音が響く。

「やあ、いらっしゃい土方くん」

俺を迎えた男がニタリと嗤う。刹那疾走った悪寒に吐き気が酷い。
さあどうぞ、と先を行く男の背中に向けて、薄く口の端を持ち上げる。
諦めることにはもう慣れた。足を一歩、踏み入れる。
"汚れた"俺は、お前には釣り合わない。それならいっそ、お前に憎まれてしまった方が救われる。
眩しい銀色がくすんでしまわないように。
何時までもその色が失われないように。



けれど、嗚呼、どうかせめて、ひとつだけ。
お前を深く傷つけた俺でも望むことが許されるのならば。






この心だけは、君のもとに置いていこう






end.



幕土企画【PLAYTHING】様

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