宝物

□外見より中身とか嘘
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どうやら自分と銀時は入れ替わってしまったらしい。

それを認めたのは、銀時が目を覚まして『土方十四郎』の姿で騒いでからだった。
どうしてこんな事になったんだ、なんて考えたら、原因はあの衝突事故しかない。あの事故の後、何かしらの要因があった可能性は否めないけれど。

「…にしてもなんでコイツなんだよ…」
「嘆いても仕方ありやせんぜ。今を楽しみやしょう」

にやにやと言うのは、近藤と共に病院へ駆けつけた沖田だ。
近藤は土方を心配して来たのだろうが、沖田の場合は怪我をした土方をからかう為に来たというのが丸分かりだ。しかも入れ替わっていると来たら、沖田にとっては最高の状況だろう。

「楽しむってお前なぁ…」
「まぁまぁトシ。この機会にちょっと休めると思えばいいじゃねェか」
「近藤さんまで…」

はぁ、と溜息を吐くけれど、確かにそうする他ないのは事実だ。
仕事が出来ない事はないだろうけれど、物凄くやり辛い。しかもこの怪我だ、通常の仕事は出来ないだろう。
もう一度溜息を吐くと、今度は横から声が掛かった。

「土方さァ、俺の顔でそんな眉間に皺寄せんの止めてくんねェ?銀さんのかっこいい顔が台無しなんですけど」
「あア?元々格好良くねぇよテメェの顔なんざ」
「んだとテメェ!!俺ァ天パじゃなきゃもっとモテてんだよ!モテモテだよ!」
「はっ、安心しろ。それは天パの所為じゃねェ顔の所為だ」
「言ったなマヨラーが!!永遠にマヨなめてろ!!」
「テメェ!マヨを馬鹿にすんじゃねェ!!」
「病院で騒ぐなテメェらァァァ!!!」
「「テメェが一番うるせェよ!!」」

叫びながら病室に飛び込んできたオバサン看護婦を叩きだし、再びぎゃあぎゃあと騒ぎあう。
それを止めたのは、予想外にも沖田だった。

「もう止めてくだせェ!」

ぐ、と悲しそうに拳を握ってはいるけれど、絶対に内心楽しんでいる。
けれどそう言うより早く、沖田は続けた。

「俺達の大事な土方さんが、万事屋の旦那と入れ替わっちまったんだ…。俺ァ、早く元に戻って欲しいんでさァ」

感極まったように言う沖田につられ、近藤までもが口を開く。

「そうだぞトシ!今はこんなことをしている場合じゃない!早く元に戻ってくれ」
「そうは言われても…」

どうしてこうなったかも分からないのに、戻れといわれてもそれは土台無理な話だろう。
すると、待っていましたとでも言うように沖田がにやりと笑んだ。



「キス、しかありやせんぜィ」



「ああ、キス…って、キスゥ!?」

思わず声を荒げた土方に、沖田がにやにやと続ける。

「入れ替わったときに元に戻る方法は、キスしかないと相場は決まってまさァ」
「そうだよねぇ。俺も王道がいいと思うんだよ」
「お、旦那もそう思いますかィ」

いや、そんなことはないだろう。だったら階段から転げ落ちて元に戻った彼らはどうなるんだ、と言いたい土方である。
けれど、沖田と銀時の言葉に、近藤はやはり信じ込んでしまったようで。

「そうか、キスだ!! トシ、万事屋、早く!」

なんて言うのである。
土方としては、銀時とキスなんて死んでも嫌だ。ただでさえ男同士だと言うのに、その上嫌いな相手となんて。

「待てお前ら!その…他にも方法が、」
「よし、じゃあやるか」
「俺の話を聞けェェ!!」

土方の叫びも空しく、銀時が土方のベッドに乗り込んでくる。自分が近づいてくると言うのは、正直中々にシュールだ。
けれど今はそんなことを気にする暇もないほど、とにかく逃げたくて仕方がない。

「ちょ、もう少し考えるとか…」
「あのなぁ、俺も自分とキスなんて嫌だよ?でもね、人生やらねぇとならねェこともあるんだよ」
「何の教えだァァ!!」

こんな話をする間にも、土方の姿をした銀時は次第に近づいてくる。
出来るだけ逃げようと、後ろに一歩後すざった、瞬間。


「!?」


がくん、と体が落ちて、土方は反射的に伸びてきた腕を掴んだ。

が、と後頭部に伝わる鈍い痛み。打ち所が悪かったのか、瞬間的に目の前が真っ暗になる。
一瞬送れて、銀時が落ちてきたのだろう重みを感じ――
意識は、暗い闇の中に落ちていった。















「……」
「目が覚めたアルか!」
「良かった。もう駄目かと思いましたよ」

目の前にあるのは、神楽と新八の顔。
多分、自分を銀時と思っているのだろう。と、いうことは――

「戻っ、た…?」

聞こえてきた声は、自分のもの。
慌てて横を見れば、阿呆面で眠っているのは銀時。その隣には、ぽかんとした表情でこちらを見ている二人も居る。
ようやく状況を飲み込んだのか、近藤が土方に近づいてくる。

「ト、トシか…?」
「そう…みてェだな」

良かったァァ!!と笑顔で抱きついてきた近藤の後ろで、沖田が小さく舌打ちをする。
更にその向こうでは、勢い良く走って行った神楽が銀時に圧し掛かっていた。「ぐへっ」と銀時が潰された蛙のような声を出す。
…あんな事をされなくて良かった、と土方が本気で安堵の息を吐く。その横で、無理やり現実世界に復帰させられた銀時が体を起こした。

「…あー…戻った?」
「戻ったよ。キスなんかしなくてもな」

沖田を睨みつけるけれど、沖田は口笛を吹いて明後日の方を向く。僅かたりとも悪びれた様子を見せないのだから、いっそ感心すら覚える土方だ。

「そっか…」

銀時は僅かに残念そうな顔をしたあと、はっと思いついたように顔を上げた。




「土方、キスしよう」




「…は?」
「キス。今度こそ土方と出来るじゃん」

そう言うなり、銀時は土方のベッドへと乗り――


「―――!」


ふ、と目の前が銀色で埋まった。
同時、唇に感じる暖かさ。

一瞬で離れていったそれに、土方の頬がじわじわと熱くなる。

「っ、な…!!」
「土方、好きです」

順番がおかしいだろうとか、そもそもなんで俺なんだ、とか。
頭にはいくつもいくつも言葉が浮かぶのだけれど――
そんな事を言う前に、とりあえず。
 
「…た……」
「?」




「たたっ斬ってやらァァァ!!」




嫌だという言葉が浮かばなかった事に気づくのは、それからずっと後のこと。




















Fin
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