たそがれ

□追い人
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一体何度目になるだろう。長い長い、『一人の人間』の人生を歩むのは。
片手で足りる気もするし、もしかすると両手の指では足りないかもしれない幾度目かの生。ドライバーにホストに弁護士など色々な人生を歩んできた。まあそのほとんどは、もうあやふやな記憶しか残っていないのだけれど。
そして現在。どこをどう間違えたか知らないが、俺は高校教師などという何ともまともな職業に就いていて。聖職者なんて柄じゃないのに、全くもって不可思議極まりない。人生色々って本当だ。
生まれた時代も環境も生活もてんでバラバラ。出会った人の数はきっと星の数以上。
気の遠くなるような生の繰り返しはまるで何かの呪いのようだけど、それを望んだのは他でもないこの俺自身だ。
今はもう、遠い遠い昔。
何よりも大切な『約束』を、したから。






一番古い記憶は、まだ日本に侍と呼ばれる男たちが存在した時代。いくつもの巨大な宇宙船が雲を裂き、高くそびえる高層ビルが空を狭め、街では天人と呼ばれる様々な種族の宇宙人が道を歩く不思議な時代だった。
そんな時代に出逢った俺とアイツ。
片や万事屋という如何にも怪しげな何でも屋の店主、片や武装警察真選組の副長という何とも物騒な集団のNo.2。
初めはいけ好かない嫌な奴で、お互い犬猿の仲であるというのは俺たちはもちろん、周囲の奴らにもはっきり分かるほど険悪な関係だったと思う。
それでも切っても切れないくされ縁は、アイツの持つ強さや誇り、優しさや弱さを感じるには十分過ぎるほどで。何時の間にか、アイツの側にいたい、そう思っている自分がいた。
アイツに嫌われているだとか、俺もアイツを嫌ってると思われてるとか、そもそも俺たちは2人とも男だとか。報われる可能性なんて万に一つもないと分かっていたけれど、日に日に大きくなる気持ちが苦しくて苦しくて仕方なくて。
だからこの想いを断ち切るために、アイツに気持ちを打ち明けた。
フラれてしまえば冗談だと笑って、またお互い喧嘩ができる日々を過ごせるだろうと、そう思っていた。
けれど俺が思い描いていた予想図は、小さく、本当に小さく頷いたアイツのおかげで全く正反対のものへと変わってしまった。
この想いを受け入れられたのが信じられなくて何度も何度も確認したら、しつこいと頭を殴られたのを覚えている。
それが俺の脳みそが見せた都合の良い夢じゃないと分かった瞬間、死ぬほど嬉しかったんだ。
絶対に離さない。倖せにする。大好き。
そう誓い合った小指の温もりも、照れたような、けれど嬉しそうな綺麗なあの笑顔も、未だに全部覚えている。あの頃の俺たちは確かに倖せだった。



だけど世界は何時だって、俺たちを置いて残酷に回っていくんだ。



あの日、遠い戦場に向かうアイツと交わした約束。
覚悟を決めたアイツに渡せるものなど何ひとつ持たない俺が、唯一誓える想い。
生きて帰って来い、そう願いを込めて紡いだそれに、泣き笑いでアイツは応えてくれた。
降り続く雨の中、遠ざかる黒い背中を何時までも見送る。
二人交わした約束を、深く深く胸に、魂に刻みつけて。
そして、やがて見えなくなったその背中が、アイツを見た最後の姿となった。



(今は別れても、必ずまた、君と、)



―――…だから、たとえどんなに永い時間がかかっても。

俺は必ずお前を見つけ出すよ。



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