短編

□ツンデレとは何なのかという考察
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最近巷では『ツンデレ』という言葉が流行している。

それは人物の性格の事を表現しているらしいが、俺にはよく理解出来ない。

だいたい、性格を表すのにツンだとかデレだとか擬音を使うのはどうかと思う。
『竹を割ったような性格』とはよく言うが、それはまだなんとなくイメージが出来るからいい。一方、ツンとデレ、このたったふた文字にどういうイメージを持てばいいというのか。


ツンってなんだ?

デレって何を表しているんだ!?


思わず熱弁したその言葉に返って来た言葉は

『泉を見てればわかる』

だ。

泉ってのはうちのクラスの奴なんだが、顔は確かに中性的な顔をしている。だが性格は至って男らしい奴だ。
そんな泉を見ていて理解できるツンデレという言葉が一体どういうものなのか、本気でわからなくなって来た。


そんなこんなで、とりあえず友人の言葉を信じて、本人には申し訳ないが今日は泉孝介という人物を観察してみようと思う。








ツンデレとは何なのかという考察
















朝っぱらからそんな会話をしていた時、早速観察対象+α×2が教室になだれ込んで来た。
あいつらはいつも賑やかで、入ってくればクラスの雰囲気を一変させてしまうからわかりやすい。
他のクラスではそうでもないらしいが、野球部といえばうちのクラスでは目立った存在なのだ。

とはいえ目立っているのは田島悠一郎という小柄な4番バッターだ。三橋と、今回の観察対象である泉はどちらかと言えば良い意味で目立たないタイプだ。ただ、田島とつるんでいる分目立つのだろう。

あ、でも、泉たちが目立つのにはあと一つ理由があるな。



「はよー」



噂をすればなんとやら。いや、実際はしてないけど、とりあえず考えていた人物が来た。

暢気に教室に入って来た金髪長身の男。浜田良郎だ。
噂では留年した奴らしいが、本人はいたって平凡…というより、バイトして生活している分むしろ苦学生で、性格も至って穏和な良い奴だ。

ただ、年が違うということは俺らぐらいの学生にとってはかなり大きな意味がある。たとえそれがたった一年でも、目立つことは避けられない。

まぁ、今となってはそんなこと気にする奴はこのクラスにはいねぇけど。



「あれ、泉達早いな。朝練もう終わったの?」



浜田は早々に野球部三人組の輪の中に入っていく。

一つ年上の浜田はとりわけこの三人と仲がよく、そのうえ浜田は野球部の応援団を創設したある意味で有名人なのだ。
そんな浜田と仲がいい三人が目立たないはずはない。

ということで、この四人は我が1年9組においては少々特異な存在だったり……したりしなかったり。
個々はそーでもないからな。
まぁ、そんな感じだ。
なんかだいぶ話がズレたな。思考を戻そう。

つまり、俺の中で泉はフツーの奴なわけで、ツンデレってゆうのに属するようなイメージは一切ないのだ。



「テメー人の宿題勝手に写してんじゃねー!」



ほら。
今だって惚れ惚れするくらいの遠慮なさで浜田の背中にハイキックを決めている。
いかにもな男らしいあの行動は、どう考えてもツンでもデレでもないだろう。

蹴られた浜田は痛みのあまりか目尻に涙を浮かべて泉を批難している。

よく考えれば、浜田はよく泉から攻撃(と言っても恐らく語弊はないだろう)を受けている。
人を怒らせるタイプではない浜田もそうだが、泉も人に危害を加えるような奴じゃないから初めの頃はかなり驚いた記憶がある。

泉が他の奴に蹴り入れたり頭突き喰らわせたりしている所は見たことがない。
たまに田島の頭を叩いたりはしてるが、あれは冗談の延長だろう。田島が痛がってる様子はなかったし。


………あれ?


泉って、浜田の事が嫌いなのか?



にしてはいつも二人は一緒にいる。
性格からして、泉は嫌いな奴に対しては殴る蹴るをして関わっているよりも徹底的に避ける気がする。
嫌いな奴に当たるような無意味な行動はしないさっぱりとした奴だから。



うん。浜田を嫌いなわけじゃないはずだ。



現に、結局は浜田が宿題を自力で解くのを手伝っている。
文句を言いながらも手伝うあたり、泉はすごく面倒見がいいやつだ。田島と三橋のコンビをよく面倒見ているし。



「おい、坂本。わかったか?」



じっと泉達を観察していると、隣の席の岩田がコソコソと耳打ちしてきた。
今回ツンデレがどーのこーの言い出したのがコイツだ。



「あ?つーか、泉のどこがツンデレなんだ?」

「はぁ!?お前、マジでわかんねーの?」



信じられないものを見るように俺を見る岩田は、よく見ろよ、と泉達に顔を向けた。
岩田の言わんとしていることがイマイチわからないが、俺も泉達に視線を戻す。



「さっきまであーんな顔しかめてたのによ。それがほら、見てみ?」

「はぁ?わけわかん………」

「わかったろ?」



勝ち誇ったような岩田の声に、なんの反抗も出来なかった。

何故なら、確かにわかったからだ。

普段の泉は浜田に対しては結構刺々しい。
それはもう標準装備と言っても過言ではない程に当たり前の光景だった。

けれど、あれは確かに違う。


いつもの浜田に対する態度とは。

そして、クラスメートに見せる顔とも。

田島や三橋に見せる顔とも。

あんな泉は見た事ない。



あんな、



あんな、柔らかで溶けるような笑みを浮かべているなんて。





あれがツンデレか。



ツンとは、刺々しい行動や態度のこと。

そしてデレとは、ツンの合間に時折見せるあの柔らかな表情と雰囲気。


ああ。あれがツンデレというものなのか。



「………ツンデレって………」

「ん?」



無意識に呟けば、岩田がにやにやと顔を歪めてこちらを見た。
俺は泉達から視線を剥がすと、ムカつく笑みを浮かべている岩田にあからさまなため息をついてみせた。

胸がむかむかとしている。



「ツンデレって、胸やけしそうだ」



爆笑しだした岩田を放って、俺は1限の教科書をかばんから取り出した。


しばらく甘いものはいらない気がする。






THE END



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