短編

□動き出した運命
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「俺らの仲間になる気はねぇ?ってハナシ」



思わず素で答えてしまった泉に、特に気を悪くした様子もなく男はアハハ。と笑った。

仲間になる気はないか、と問いかけながらも男は泉を解放する気はないらしく、両手は相変わらずガッチリと後ろで掴まれている。



「……嫌だって答えたら?」



海賊と言えば無力な人間ばかりを襲い、金品を巻き上げては人を殺していく悪党だ。
そんなものに好んでなりたがるわけもなく、泉はまるで挑発するように男に尋ね返す。

穏やかそうに話す男だが、海賊だ。
もし逆鱗にでも触れれば泉だけでなく栄口も直ぐさま殺されるだろう。

内心は不安にかられているが、それでも泉は気丈な態度を崩そうとしなかった。



「それは困るな。殺したくはないしね。それに、お前だって奴隷のまんまじゃ嫌なんじゃないか?」



困ったような声を出して男は続ける。



「奴隷のまま一生虐げられて生きるか、海賊になるか。はたまた死ぬか。俺的には海賊がオススメだよ。最初は下っ端でキツイかもだけど、うちの奴らはいいやつばっかだし。悪いようにはしないって約束するよ」



確かに奴隷のままでいたって将来まともな人間として扱われることはないだろう。

だからといって海賊になるのは極論のような気もするが、今は泉には選択肢などない。

そして何より、この男は信用が出来る気がする。
どうしてかはわからない。
海賊らしくない物腰の柔らかさか、それとも落ち着いた声音のせいなのか。



「ね、俺達と一緒に行こう?」



ふわりと、開いた窓から潮風が流れ込んで来た。
けれど、香ったのは後ろの男のどこか懐かしさを感じる不思議な匂い。



泉は、無意識のうちに頷いていた。



「わかった。仲間になってやるよ」

「うん。よかった。そっちの子はどうする?」



満足そうに笑いながら男は泉の両手を解放した。
暗闇の中突然触れるものがなくなり、一瞬泉は心細さを覚えた。



「俺は泉が行くって言うなら、どこまでも一緒に行くよ」

「栄口…」



暗闇の中でさえ、栄口が仕方ないなぁ、と苦笑している顔が泉には容易に想像出来た。

腹を括ったせいか、先程までの不安がない。あるのは逆に、これから訪れるであろう未知の世界への好奇心だ。



「よし。じゃあ行こうか」

「え、ちょ、おい!?」



クスクスと笑うと、まるで見えているかのようにさりげなく男は泉の手を取って歩き出した。



「じゃあ、とりあえずこの船にさよならしとけよー」



暗闇に怯むことなく男はズンズンと唯一開かれた窓まで歩いていく。
月明かりに栄口と、ふわふわとした髪の、顔が整った少年が窓を抜けて船の下に飛び降りたのが見えた。



「きっと、泉も楽しめるよ」



手を引く男は上機嫌に笑う。
当たり前のように名前を呼ばれた泉は一瞬驚いたが、嫌な感じなどせず、寧ろどこか嬉しく感じた。



「さぁ、行こうぜ。泉」



雲間から、一際明るい月光が差し込んだ。
窓際に立つ男の髪が、月光を反射して金色に輝いた。



「…ああ」



優しく微笑むその顔に、泉はふわりと笑って頷いた。










THE END







あとがき

海賊版ハマイズはいかがだったでしょうか?
なんだかまたもやハマイズ未満な作品になってしまいました…。
なんで私が書く小説はこう甘さがないのか…?しかも展開がやたら早い。
………精進します。


今回は海賊浜田が奴隷泉を連れ出す、という設定で書かせていただきましたが、実は最初は海賊船内での海賊×奴隷にしようかと思っていました。が、思い浮かばなくてこんなんなっちゃいました←

リクエスト主であるポン酢さんには軽く匂わせていたんですが、海賊浜田は泉にとってのヒーローです。海賊だけど。

浜田が所属する海賊団は、海賊と言っても義賊っぽい感じの海賊で、泉と栄口が奴隷として載せられていた船は実は悪徳商船だったとかいう裏設定もあったり。
活かしきれてないけど←

ちなみに栄口捕まえてたのは水谷です。


ポン酢さん、リクエストどうもありがとうございました!
5万Hit記念プレゼントはこの話から数カ月後の浜田と泉にしようかと画策中です(笑)




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