短編

□動き出した運命
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海賊達が乗り込んで来たのか、至る所から叫び声と怒号が聞こえてくる。
波によるものなのか、それとも動き回る人間によるものなのかわからないが、船は常に大きく揺れている。

壁に手を付き、泉は不安定な床の上を急いで走る。

途中、何人もの奴隷たちとぶつかる。海の上、逃げ場などないのに一体何処へ向かうのか。

ふと、そんな考えが頭に浮かんだが、今はそれどころじゃない。友人の安否を確かめることが先決だ。








船の最奥にある古びた木製の扉。
そこは奴隷たちが詰め込まれた部屋だ。
泉は錆だらけのドアノブを捻ると、勢いよく扉を開いた。



「栄口!!無事か!?」

「泉!来ちゃ駄目だ!!」



暗闇の中、廊下から入り込んだ微かな光に何かが反射して光った。
ランプもない部屋の中には、確かに栄口がいた。

しかし、いるのは栄口だけではない。



「泉!逃げ…んぐっ!!」

「栄口!?」



不自然に途切れた栄口の言葉に、泉は慌てて部屋の中に飛び込んだ。



「そこにいるのは誰だ!?栄口を離せ!!」



口を何かで塞がれているのか、栄口のうめき声が聞こえてくる。
泉は音だけを頼りに恐る恐る一歩を踏み出した。


その瞬間、闇よりも暗い影がすぐ傍を通り抜け、背後に回り込むや否や口を大きな手が塞いだ。



「んー!!んー!」



両手を後ろで掴まれ、口を塞がれた状態で泉は必死に抵抗した。
離せ、と声にならない叫びを上げると、すぐ耳元に人の気配を感じた。



「静かに。殺しはしねぇから」



耳元で囁かれる押し殺したテノールの声に、泉はビクッと肩を揺らした。



「んー!?」

「大丈夫、友達も無事だから」



まるで安心させるように男は囁く。
海賊ではないのか?と疑問に思いながら、泉は大人しく黙り込んだ。



「騒いだら命の保証は出来ないよ。手をどけるけど、静かにしといてくれる?」



やはり男は海賊らしい。ならば一体どこから入り込んだのか。
この部屋は船の最奥で、扉以外には窓一つしかない。まさかそこから?もしそうなら、この船は完全に囲まれていることになる。
ならば一体どうやって逃げればいいのだろうか。


頭の中をフル回転させながら考えるが、この状況を打破出来るようなアイディアは浮かばない。泉は体を強張らせながらも、ゆっくりと頷いた。



「そっちの子も口離してやって」

「りょーかい」



泉の頭の上から声がすると同時に、口元から圧迫が消えた。
泉は首を回して相手の顔を見ようとしたが、その前に男に入口の扉を閉じられ、完全な暗闇に戻されてしまった。



「まさかここにまで人間詰め込んでるなんてなぁ…」

「やっぱ荷物は下だったんじゃん。あー、また阿部に馬鹿にされちゃうよ」



頭上でやり取りされる会話を聞く限り、海賊たちは船の積み荷が目的らしい。
声の高さからして二人とも若いようで、もしかしたら泉たちとそれほど変わらないのかもしれない。



「この二人どうする?」



栄口を捕まえている方が尋ねた。
泉と栄口の間に緊張が走る。



「ん〜…。なぁ、お前ら奴隷だよな?」

「あ…ああ」



泉を捕まえている男は、問いかけには答えないまま泉に尋ねた。
泉は少し迷ったが、ここで嘘をついても仕方ないと思い頷いた。



「じゃあさ、俺らの仲間になんない?」

「……は?」



あっけらかんと言い放つ男に驚いたのは泉だけではなかったようだ。



「何勝手なこと言ってんの!?そんなん駄目だって!」

「船長には俺から頼むよ」

「そーゆー問題じゃないっしょ!」

「だってよ、俺らと歳変わんないくらいじゃん?それに、船が襲われてんのに逃げないで友達助けに来るなんて、スゲーじゃん」

「そ…それは…確かにそーだけど」



流れがどうもおかしな方向へ進んでいるのを感じながら、泉は二人の言い合いを聞いていた。



「海賊が最も大切にしなければいけないもの。それは仲間との信頼だって、船長もいっつも言ってんじゃん」

「…あー、もう、わかったよぉ!」

「へへ、ワリィな」



どうやら結論が出たらしい。
栄口を捕まえている男は、後で怒られてもしんないからね!とぶつぶつ言っていたが、諦めたように溜息をつくと黙り込んだ。



「で、お前らの意見は?」

「意味わかんねぇ」



頭の上から問いかけられた泉は、呆然とする思考のままに口を開いた。




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