短編
□Wonderful Life
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それは、よく晴れた日曜日の出来事。
いつもと変わらない、ありふれた日常。
wonderful life
「お疲れ様!1時間後に練習再開するよ!それまで休憩!」
「はい!お疲れっした!」
元気の良い掛け声が晴れた青空に響いた。
疲れを見せないその声に百枝は満足そうに頷くと、愛犬を連れて篠岡と共に笑いあいながらグラウンドを離れた。
「あー腹減ったー!」
挨拶をするやいなや両手でお腹を押さえて声を上げたのは田島だ。
練習中も休憩中も元気イッパイな田島を見て、誰もが苦笑を浮かべる。
「アイツの体力は一体どっから湧いてくるんだ?」
「さーなぁ?」
バタバタと駆け足でベンチへ戻る田島と、その田島のあとについていく三橋を見ながら花井と巣山は呆れたように顔を見合わせた。
「田島の元気の元は野球だもんね」
「じゃあ田島が元気なくなる時なんてないんじゃない?」
アハハ、と笑いながら花井と巣山の横に並んだのは栄口と西広だ。
二人の言葉に花井と巣山も納得の表情を浮かべる。
すると、何か思い付いたのか、巣山がじゃあ、と口を開いた。
「三橋もだよな。三橋の元気の源は投球だし」
「あー確かに。いいなー。あいつらはお手軽で」
「いやいや、あの二人は1日でもボールに触れなかったら寂しくて死んじゃうかもだよ」
「ウサギみたいだなー」
巣山の言葉にどこか遠い目をする花井。
クスクスと笑いながら冗談めかして話す西広の言葉に栄口と巣山はケラケラと笑う。
「何なにー?みんなして何話てんの?」
笑い声につられたのか、トテテと軽快な足音を立てて水谷が近づいて来た。
「田島と三橋は野球してるだけで元気になるから羨ましいなってハナシ」
「あー確かに!俺なんかもう午前練だけでヘトヘトだもん」
「お前はいっつもヘトヘトだろ?」
「そんなことないってー」
ヘラッと笑う水谷の腕をからかうように巣山が軽く叩くと、水谷はほら元気元気ー、と大袈裟に腕をブンブンと振った。
そんな水谷に、一斉に笑いが起きる。
「おーい!早くしろよー」
のんびりと5人が歩いていると、待ち切れなかったのかベンチから田島が叫んでいる。
泉と沖も既に弁当を準備して5人を待っているようだ。
「おー!ワリィワリィ!」
5人は田島たちの元へ急ぐと、弁当をバッグの中から取り出してベンチの前で円になって座った。
「あれ?三橋と阿部は?」
座ろうとした栄口はそこに阿部と三橋がいないことに気付き、隣にいた沖に尋ねた。
沖は栄口の質問に苦笑を浮かべてあっち、とベンチ脇の草むらを指差した。
沖の指先を追ってそちらに目を向けると、そこには確かに阿部と三橋の後ろ姿がある。
「どうしたんだ?あの二人」
「なんか、午後練から新しい練習方法試したいらしいよ」
「ったく、阿部もトコトン野球バカだよなー」
花井たちも阿部と三橋に気付いたのか、首を傾げている。
沖が苦笑しながら二人のことを説明すると、持って来たペットボトルのお茶をグイッと飲んでいた泉が呆れたように二人を見遣った。
「いーじゃん、野球バカ!」
「それはお前も野球バカだからだろ」
座りながらもじっとしていない田島に、土埃立つだろ!と叱りながら花井は阿部達に向かって声を張り上げる。
「阿部ー三橋ー!!」
花井の声に気付いたのか、阿部と三橋がこちらを振り返る。
三橋の顔色が青くなっているのは阿部がまた何か言ったからなのか、それとも阿部の言う新しい練習方法がそれほど難解なものだからなのか。
どちらにせよ阿部が原因であることに間違いはないだろう。
「あとは飯食ってからにしとけー」
休憩時間終わるぞー、と言えば、阿部が了解、と片手を上げる。
それから三橋に2、3言何かを言うと、二人でこちらの方へと向かってくる。
「わりーな」
「もー限界!腹減った!!」
二人が合流すると、全員目をギラギラと輝かせて花井を見る。
花井は両手をバチンと合わせると、習慣になった言葉を唱える。
「いただきます!」
雲一つない青空の下に、元気がいい声が響き渡った。