短編
□GPS
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たとえば授業中に窓の外から聞こえてきた歓声とか。
たとえば廊下を歩いてる時の曲がり角とか。
たとえば扉の鍵が壊れた屋上にだとか。
いつもそこに君がいるんじゃないかって、探してしまうんだ。
GPS
「おっしゃぁー!!」
「ナイッシュー!田島!!」
校庭から微かに聞こえて来た甲高いホイッスルの音とざわめく歓声。
反射的に目を外に向ければ、眩しい程の白い入道雲が青い空に浮かんでいる情景が目に入ってきた。
全開に開いた窓からはこの時期にしては珍しい涼しい風が吹き込んで来て、暑さにじわりと浮かんだ汗を乾かしていく。
「次の行は…長谷川、訳せ」
「え!?マジっすか!」
「おう。大マジだ。さっさと立て」
視線を向ければ、廊下側に座る長谷川が慌てたように教科書をバタバタとめくって立ち上がっていた。
教室からはアハハハと笑い声が上がり時々長谷川に向けての軽い野次も飛んでいる。、つられて笑ってしまった。この先生の授業はこんな軽いやり取りが出来る気さくな授業だから好きだ。
教室がまた静まり返り、訳し始めた長谷川の声が静かな教室に響く。
机に広げた教科書に視線を落とせば、まだ次の文章までは余裕がありそうだった。
窓の外からまたホイッスルの音が高らかに響いてきた。
試合終了を知らせるホイッスルのようだ。
時計を見れば、授業終了10分前。
このあと片付けをして授業を終えるのだろう。
それが終われば昼休み。今日は珍しく9組と一緒に昼を食べる約束をしていたが、着替えやら何やらで、9組は少し遅れるかもしれない。
花井はぼんやりと黒板に目を戻した。
いつの間にか長谷川の訳が終わり、先生が黒板に新しい事を書き出していた。
花井は慌ててシャーペンを握り直すと、ノートに書き込み始めた。
授業終了まで、あと5分。
「なにボーッとしてたんだ?」
お前にしちゃ珍しいな、と弁当を持ってやって来たのは阿部だ。
9組とは屋上で待ち合わせをしているため、花井を迎えに来たのだろう。ちなみに水谷は栄口と約束をしているらしく、早々に教室を後にしていた。
花井はかばんから弁当を取り出しながら苦笑した。
「いや、9組体育だったっぽいから遅れるんじゃねぇかなー、って思ってただけだ」
「体育?よくわかったな」
「声援が聞こえてきたんだ。多分、田島が点取ったんだろ」
教室を後にして屋上へ続く階段を上がる。
賑やかな廊下からは、バタバタと走り回る足音が聞こえてくる。
花井の言葉に阿部も納得したように頷く。
「田島はスポーツならなんでもこいだからな」
それ以外はバカだけど、と軽く失礼なことを言い退ける阿部に、花井も否定はできずただ曖昧に笑った。
「特に…」
ガチャリと屋上の扉を開けながら、阿部は口を開く。
眩しい太陽の光に目がチカチカとする中、花井は阿部が途中で言葉を切ったことに首を傾げ、阿部を振り返ろうとした。
その瞬間、腹の辺りに衝撃が走った。
「ぐぇっ」
カエルが潰されたような声を上げる花井を、阿部はやっぱりな、という顔で見ている。
花井が腹辺りに視線を落とせば、そこにはニカーと笑う田島が張り付いていた。
「オッセーよ!腹減ったー!!」
「殺す気かよ…。ってか、はえぇな。体育だったんだろ?」
ばりっと田島を引きはがして屋上を見渡せば、既に9組のメンツが勢揃いしていた。
花井と阿部もその輪の中に入ると、泉が少し疲れたような顔で肩を竦めた。
「田島が急かすからな。超特急で着替えて来た」
「だって花井と食べるんだぜー?待ち切れなくってさ!」
「お前阿部忘れてんぞー」
ニコニコと機嫌良さそうに笑う田島に、浜田が苦笑しながらツッコミをいれる。
直球な田島の言葉に花井は顔を赤くしながらも、溜息をついて自分の弁当を広げ始める。
「そういや、さっき何か言いかけてたよな?」
「ん?ああ、田島はバカだって話か?」
「なにー!?阿部、シツレーだぞ!ゲンミツに!!」
本人を目の前にしてもハッキリと言い切る阿部に、花井は呆れたような、感心したような視線を向ける。
花井の隣でプンプンと怒る田島を見ても、阿部は特に気にした様子もない。
「だってバカじゃねーか。特に、花井バカ」
何の気無しに言われた言葉に、その場にいたメンバーはキョトン、と目を丸くした。
「………あー、確かに」
「それはあるよなぁ」
いち早く納得したのは泉だ。
花井と田島を交互に見ながら、どこか呆れたような表情で頷いている。
泉のあとには浜田があはは、と笑いながら頷き、三橋は困ったようにオドオドと田島たちを見ている。
「そんなん、当たり前じゃん!」
固まっている花井の隣で、突然田島は高らかに宣言しだす。
「だって俺、花井スッゲー好きだもん!」
あまりにも潔いその言葉に、泉と阿部は花井を憐れんだ目で見る。花井の硬化はまだしばらく解けそうにない。
そんな花井の様子に気付かないのか、田島はなおも話し続ける。
「俺花井のいる場所とかすーぐわかんだぜ!スゴくね?」
自信満々に話す田島には迷いはなく、試合で勝った時のように目をキラキラとさせている。
「あ…あー…と、とりあえず、飯食わねぇ?な、花井?」
「へっ!?あ、はい、そうっすね!!」
見兼ねた浜田が苦笑いしながら花井に声をかけると、花井はようやく我に返ったのか汗をダラダラ流しながらも、既に恒例となった掛け声を出し始める。
「いただきます!」
全員の合唱が青い空の下に響く。
始終花井にベッタリな田島と苦笑しつつも嬉しそうな花井。
とても平和な昼休み。
そんな中、ガツガツと弁当をがっつくメンバーの心情は同じだった。
『花井もジューブン、田島バカだったな』
THE END
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