短編
□○△□、∞。
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1番近くの映画館はここから3つ目の駅の近く。
結構ファッションビルなんかが立て込んでいる所謂繁華街の中にある。
改札を抜ければ、晴れの日曜日らしく親子連れや友人連れなど、車道も歩道もごった返していた。
浜田に誘われてここまでやって来たのはいいものの、その人込みに既に引き気味だ。
「うっわー、凄い人込みだなぁ」
「もう既に帰りてぇんだけど…」
元来人込みが嫌いな俺はげんなりとした表情で通りを眺める。
このまま二人で通りに繰り出したら、離れ離れになるのは目に見えている。
浜田はチラッと俺を見下ろすと、俺が通りに気を取られている隙に手を取った。
「え!?おいっ!」
「だーいじょぶだって!誰も見てないし、逸れちゃうじゃん?」
急な浜田の行動に批難の声を上げるが、それを軽く流して浜田は人込みの中へと飛び込んだ。
そんな浜田に引きずられながら、しっかり握られた手に視線を落とす。頬が熱くなるのが自分でわかって俯く。
浜田が前見てて良かった…
心の中でそう呟くと、置いていかれないように小走りで浜田についていく。
繋いだ手を周りに見られないように、と出来るだけ浜田との距離を縮めると、その距離の近さに逆にドキドキしてしまった。
そんな俺の葛藤も知らず、浜田は上機嫌なまま人波をくぐり抜けて行く。
「おー、映画館も多いなぁ」
ようやくたどり着いた映画館は、人が溢れかえっていた。
ちょうどハリウッドの大作が上映されているかららしい。
「俺らもこれみる?」
上映作品一覧を見ながら浜田は一枚のポスターを指さした。
それは有名なアクションスターがでかでかとトップに置かれた、いかにもなアクション映画らしい。
俺はざっと全てのチラシを見て、目についた一つの映画を示した。
「これは?」
「んー?うん、面白そうじゃん」
俺が指したのは邦画だった。
内容はコミカルなものらしく、ポスターからして笑いを誘いそうなものだ。
浜田もそれなら構わない、というように笑って頷いた。
「買って来るからここで待ってて」
「おう」
チケット売り場へ向かう浜田を見送ると、俺は壁に寄り掛かった。
流れるように動いて行く人々を何とは無しに眺めていると、ふと見知った顔を見つけた。
「栄口!水谷!」
人込みにチラチラと見える二人に手を振ると、二人も気付いたのか一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに笑って駆け寄って来た。
「泉じゃん!!映画見に来たの?」
「おー。お前らも?」
俺が聞き返すと、二人は同時に頷いた。
「うん。俺らはコレ見に来たんだ」
そう言いながら水谷はある洋画の前売券を二枚、ひらひらと出した。
どうやらそれはミステリー映画らしく、少しシリアスな表情の俳優が女優と共にチケットに印刷されている。
「泉は何見るの?」
「これ。今浜田がチケット買いに行ってんだ」
栄口の質問に、先ほど選んだ映画のポスターを指差せば、栄口はこれも面白そうだよね、と笑った。
「じゃあ来週はこれ見に来ようよ」
「そうだね」
「え?お前らいっつも来てんの?」
二人のやり取りに、驚いたように目を見開いたが、栄口と水谷はキョトンとした顔で頷いた。
「そーだよ。大体デートっていったら映画とか買い物とかだよね。時々家にも遊びに行くけど」
「基本的に家族いるからほとんど外出するよね」
顔を見合わせながら笑い合う二人に、なんとなく胸がツキンと痛んだ。
「色んなとこに出掛けてるから思い出いっぱいだよー!」
「よく考えたら部活休みの日も会ってるんだよね。…泉と浜田さんもここよく来るの?」
今まで会ったことないよね、と首を傾げる栄口に、俺は少し言いづらそうに苦笑した。
「あれ?栄口と水谷じゃん」
その時ちょうど、浜田が人波をくぐり抜けて戻って来た。
いいタイミングで帰って来た浜田に、無意識のうちにホッと胸を撫で下ろしていた。
「二人もデート?」
「そうだよー」
浜田が笑って尋ねると、水谷も楽しそうに頷いた。
「あと5分くらいで始まるって」
「じゃあ急がなきゃじゃん」
「おう。じゃあまた明日な!」
浜田がチケットを見せながら言うと、水谷は簡単な挨拶をして俺達もチケット交換しに行こ、と栄口を連れて去って行った。
「ポップコーンとか買いに行こうぜ」
「…あ、ああ」
ニコニコと笑う浜田に頷くと、俺達は急いで売店へと向かった。
心のどこかでもやもやとした気持ちを残したまま。