短編

□○△□、∞。
1ページ/4ページ





俺と泉はバイトと部活でそれぞれ忙しい。

そのため、部活後に泉がうちに泊まりに来るとき以外で泉と共に過ごす時間は授業を除いて皆無と言っていいほどない。

お互いすべきことをやっているのだし、現状に不満があるわけではない。


でも、たまに重なった休みくらい、いつもと違った過ごし方をしたいと思っても罰は当たらないと思うんだよね。うん。









○△□、∞。















「というわけで、出かけよう」

「何がというわけなんだよ」



良く晴れた天気のいい日曜日。
モモカンのバイトの関係で休みになった部活の暇を持て余すように、泉は当たり前のようにうちに来て、当たり前のようにベッドを陣取って寝転がったまま漫画を読んでいた。


そんな泉に先程頭で考えていたことを口に出さないまま提案すれば、これまた当たり前のような返答が返ってくる。



「うん。だからね、折角の日曜なんだし、デートでもしない?」

「はぁ?でぇーとぉー?」



まるで絵に書いたような嫌な顔を浮かべて泉は口を曲げる。
これは照れ隠しなんかじゃなく、明らかに『何言ってんだ?馬鹿じゃねぇ?』とか思ってる顔だ。

いつもなら空気を読んで引く俺だけど、今日はちょっと強引に攻めてみる。



「だってさ、泉と出掛けたことって殆どないじゃん?いっつも家に引きこもってっし。たまにはどっかに遊び行かねぇ?」

「…まぁ、確かに出掛けたことねぇな」



今までのことを思い出すように、泉は眉間にシワを寄せて考え込んでいる。
けれど残念ながら泉と俺が二人で出掛けた思い出など、そう簡単に思い出せるくらい最近の出来事じゃない。…言ってて悲しくなるけど。

案の定、思い出せなかった泉は寝転がっていたベッドの上に座り直すと、漫画を枕元に放り投げた。



「仕方ねぇな。めんどいけど、付き合ってやるよ」



口で言う割に乗り気な泉は両手を上げて伸びをした。
その様子を見て俺が心の中でガッツポーズをしたのは言うまでもない。

窓を閉めたりガスの元栓を確かめたりと、早速出掛ける準備を始める俺に、来た時と同じ姿のままの泉は特に手伝うそぶりも見せずのんびりとベッドに腰掛けたまま声をかけた。



「出掛けるって、どこ行くんだ?」



よく考えてみれば、泉と出掛けることが主題になっていて、目的地のことを全く考えていなかった。
普段使わない頭をフル回転させて、所謂デートスポットといわれる場所を思い浮かべる。



遊園地…は今の所持金的には無理だ。まず泉は財布持ってきてないだろうし。

じゃあ水族館。…は泉が気に入るとは思えない。優雅に泳ぐ魚見て腹減ったとか言いそうだ。

なら、ウィンドーショッピング?…いや、女じゃあるまいし、そんなことしてもつまんなそうだ。
もちろん、泉と一緒なら俺はどれでも楽しめるけれど!!

と、若干思考が逸れながらもたどり着いた最後の案を口にする。



「あー…映画館?…とか?」

「なんで疑問形だよ。…まぁ、いんじゃね?」



全ての準備が整ったのを見計らってか、泉はベッドから降りてスタスタと玄関へ向かう。
俺も財布とケータイをポケットに突っ込むと、急いで泉の後を追った。


今日のデートの行き先は、映画館に決定だ。
















「あれ?泉に浜田じゃん!」



家から出て数十分。
人の往来が激しい駅前にやってくると、人込みから聞き慣れた声が聞こえてきた。



「田島に花井か」

「うっす」



声がした方向に顔を向けると、そこには私服の田島と花井が立っていた。
普段ユニフォームか制服でしか会わないため、一瞬誰かわからなかった。

花井は片手を上げて泉に挨拶すると、泉の隣に立っていた俺にもこんにちは、と礼儀正しい挨拶をした。


人の流れを遮らないように4人が少し端に寄ると、田島が泉と俺を見ながら口を開いた。



「泉たちなにしてんの?デート?」



悪気なく尋ねる田島に泉がウッと息を詰まらせてしまったので、思わず苦笑しながら俺はそうだよ、と答えた。



「コイツがどーしてもって言うから」



少し顔を赤くしながら泉はわざと不機嫌そうな表情を作って腕を組む。
付き合い始めて結構な期間が経っているにも関わらず、泉は相変わらずこの手の話には慣れないらしい。



「田島たちは?」

「俺らもデートだせ!ゲンミツにな!」

「バッティングセンターに行くだけだろーが」



ニシシと笑う田島に花井は軽くため息をつきながら肩を竦めた。
花井も少し照れ臭そうだ。



「お前ら休みの日にも野球してんの?」

「練習熱心だなぁ」



泉は花井と田島を呆れたように見てるけど、俺は驚きと感心が入り交じったような表情をしている。
花井は苦笑いしながら頭を掻く。



「こないだ駅の近くにバッティングセンターができたって聞いてな。試しに行こうって約束してたんだよ」



俺だってんな毎日野球してるわけじゃねぇって、と花井は肩を竦めてるけど、やっぱり凄いと思う。



「じゃあ俺達はこれで。また明日な」

「おー。明日の朝練に響かないようにしとけよ」

「ゲンミツに余裕だぜ!!」



元気いっぱいにガッツポーズをする田島をそろそろ行くぞ、と花井は引っ張って行った。



「俺達も行こうか」



仲良く連れだって歩いていく花井と田島を見送ると、泉と俺も駅へと向かって歩き出した。





次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ