短編
□REG
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12―ENDZONE―
暗闇の中で声がした。
初めて聞く、けれどどこか懐かしさを感じる声だ。
それは、アイツの声だと分かった。
俺達を飲み込んだ、地の底に潜むアイツの声だ。
―…ば、返し…や…―
ぶつぎれで聞こえるその言葉は、それでも何故かはっきりと聞こえた。
「本当か?」
暗闇に向かって問い掛ける。
「そうすれば、本当にアオイを返してくれるんだな?」
暗闇で、誰かが笑った気がした。
「REGが出してきた条件は、新しいプレイヤーをここへ導くこと。誰か一人でもクリアすればアオイを返すと約束したんだ」
暗闇の中で待っていたのは、崎山透だった。
疲れ切った表情を浮かべた崎山は、何事もなく戻って来た泉たちに小さく笑みを浮かべると、淡々と語り出した。
「葵は俺の双子の妹なんだ」
光がない闇の中で、何故か3人の姿ははっきりと見える。
これも世界が崩れ始めた現れなのかもしれない。
「今まで何人かのプレイヤーが来たけど、誰もクリア出来なかった」
黒い世界が歪んだ。
どこからか、白い光が漏れてくる。
崎山はその光を見上げて悲しそうな笑みを浮かべる。
「…そうか。葵はもう…」
小さく息を吐くと、泉達に視線を戻す。
「何となく分かってた。他の奴らが助からないのに、俺達だけが助かるわけがないよな」
崎山は自嘲するかのように口元を歪めた。
けれど、すぐに表情を改めると何も見えない闇の先を指差した。
「REGはあそこにいる。アレを壊せばお前らの勝ちだ」
崎山が示したその先にあったのは、ぽっかりと開いた空間に浮かんだ、野球ボール大の小さな黒い球体だった。
浮いているということ以外なんの変哲もないその物体は、特になんらかの動きを見せるわけでもなくただそこにある。
沈黙するそれは何人もの人間を喰ったものには見えない。
これが、本当にこの悪夢の元凶なのだろうか。
「泉は下がってて」
何があるかわからないから、と道を塞ぐように一歩前に出た浜田はその球体に近付いていく。
「ここまで来たんだ。俺も行く」
その浜田の背中を追いかけて横に並べば、浜田は一瞬何かを言いかけて口を開いたが、困ったような、はたまた呆れたような微笑を浮かべて肩を竦めたけれど、特に何も言わなかった。
二人が近付いても黒体はなんの反応も見せない。
浜田と泉は顔を見合わせて頷くと、同時に手を伸ばして触れた。
沈黙を守っていたREGにヒビが入る。
その裂け目から、眩しいくらいに白い光が溢れ出してきた。
今や闇に包まれていたはずの空間には光が満ちている。
そして、重力が消えた。