短編
□REG
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09―SHINING―
疑ってはいけない
それがこの世界のルールだった
暗闇を走り続けていた。
一体どのくらいの時間、走り続けていたのかはわからない。
まだ1時間も経っていないかもしれないし、もしかすると数日経っているのかもしれない。
暗い、無音の世界はまるで時の流れから外れてしまったかのようだ。
不思議と疲れはなかったし、空腹も感じなかった。
何もない状況でそれはとてもありがたいことだったけれど、それは逆に永遠にも似た時間を感じさせる原因にもなっていた。
ただ走るだけ。
出口は確かにあるけれど、それがいつ頃目の前に現れるのかはわからない。
終わりが見えない道のり。
背後から、絶えず追いかけてくるモノの気配。
これは本当に現実なのだろうか。
なにも見えないこの世界は、自分が見ている夢なんじゃないだろうか。
だいたい、疲れないだとか、お腹が空かないだとか、現実にそんなこと有り得るだろうか。
それに、なんでこの先に出口があるだなんて、俺は知っているんだ?
この世界のことも、この状況のことだって俺は何も知らないはずなのに。
ただそう思い込んでいるだけじゃないのか?
なら、俺は今、何の為に走っている?
俺は今、何から逃げている?
俺は今、何処へ行こうとしている?
背後に迫るモノなんて、ホントはそんなのないんじゃないか?
『助けて』
白い光が見えた気がした。
「泉!!」
鋭い声に、我に帰った。
「う…わっ…!」
反射的に走りだそうとした足に、何かが絡み付いている。
前に進めなかった体が地に倒れる。
「泉!!!」
すぐ近くから声が降ってきて、右腕を掴まれた。浜田だ。
何の温度もない足に絡み付いた触手と違って、浜田の手は熱かった。
その熱に、今の状況を理解した。
「くっそ…!!」
引っ張り始めた触手を蹴り飛ばす。
それらが怯んだ隙に体を起こして走り出した。
「泉、急に止まってどうしたんだ?」
すぐ隣を走る浜田が心配そうな声で尋ねる。
ずっと走っているにも関わらず、息すら切らせていないその口調に、やはり違和感を感じる。
「なぁ、俺達って、どこに向かってるんだ?」
「どこって、この先にある出口だろ?」
何の疑問も持たない浜田の言葉は、少し前の自分と同じだった。
確かにこの先には出口があると信じていた。
「なんで出口があるってわかるんだ?」
「なんでって………そう言われっと、わかんねぇけど…」
「この先にあるのって、本当に出口なのか?」
心に浮かんだその疑問は、一度認識してしまえば大きく膨らんだ。
膨らんだ疑問はまるで元々そこにあったかのようにストンと心の内側に収まった。
「なんだ、あれ?」
上がった浜田の声につられて視線を動かせば、視界の隅に白い光が入り込んで来た。
この暗闇の世界にはあるはずのない光。
『知っている』世界にはないその光は、小さいけれど、確かにそこにある。
光に照らされて、ぼんやりと浜田の姿が見えた。
とても久しぶりだ。
「行こう!!」
浜田の腕を掴んで、光へと走った。
追ってくるはずのモノは、今はその存在を感じなかった。