短編

□REG
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00―OPENING―







「見つかった!早く!!!」

暗闇を切り裂くような鋭い声に背中を押されて、重たい足を動かした。
後ろは振り返らない。振り返れば、きっと捕まる。
進む先は闇に消されて見えないけれど、地面が続いているのは知っている。だからこそこの真っ暗闇の中を恐れずに走り抜ける事が出来るのだ。

「もう少し!!」

右側から声が聞こえた。
見えなくてもその表情が僅かな希望を讃えているだろうということは、長い付き合いだ。すぐにわかる。
きっと自分も同じように顔にはうっすらと笑みが浮かんでいるだろうから。

「見えた!出口だ!!」

歓喜に滲んだ声を上げる。
前を見れば、暗闇の中に十円玉くらいの光がぽつりと浮き上がっていた。
まるで希望の灯のようなその光に、重たかった足は嘘のように軽くなる。

あの光の先に、俺達の世界がある。

暗闇に慣れた目にはその光は痛いくらいに眩しいけれど、自分達はずっとその光を探していたのだ。

「うわっ!!」

突然、足元に何かが巻き付いて来た。
急なことに受け身も取れず勢いよく倒れ込むと、顔を地面にしたたかに打った。

「トオル!?」

右前方から慌てた声が聞こえた。
どうやらこちらに向かっているのか、段々声が近づいてくる。
足元に手をやれば、紐のようなものが足首に巻き付いているのかわかった。
それを解こうとしても固く巻き付いたそれはどんなに力強く引っ張ってもびくともしない。

まずい。捕まった。

光が見えて、油断してしまったのだ。
前方を走っていたアイツも、こちらの異常に気付いたのか足を止めているようだ。
このままではアイツも捕まってしまう。
そう思って咄嗟に叫んだ。

「大丈夫だ!何でもない!!とにかく走れ!」

姿が見えない分、アイツは自分の言葉を信じて走るだろう。
それでいい。二人ともつかまったら意味がないのだ。
自分はもう逃げられやしないけれど、誰かが逃げ切れなければこの『ゲーム』は終わらないのだ。

足首に絡み付いた紐が、急に力を持って光とは反対の方向へ引っ張り出した。
向かう先は、奈落の底。
「エンドゾーン」と呼ばれるそこは、敗者が堕とされる場所だ。そこに堕とされれば二度と現世へ戻ることは出来ない。

ずるり、ずるりと引っ張るその力はゆっくりで、けれども抗えない程に強い。
諦めかけたその時だった。不意に、手首を何かが掴んだ。

「トオル!」

逃がしたはずのその声が、目の前にいた。

「バカヤロウ!!なんで戻って来たんだ!!お前まで戻れなくなるぞ!」

見えないけれど、確かに目の前にいる相手に怒鳴った。
手を振りほどこうと暴れても、その手はさらに強く手首を握るだけで離れる気配は微塵もない。

「一緒に帰るって約束したじゃん!」

光の方向へ引っ張られる腕が痛い。
その痛みは、アイツが自分を救おうとしてくれている思いの強さだった。
けれど、アイツ一人の力ではこの闇の力には敵わない。
現に、徐々に二人とも光から遠ざかっている。

「お前だけでも逃げろ!」

叫んでも、アイツは手を離さない。
引っ張られている片足が宙に浮いた。地面が終わったのだ。
無我夢中で腕を振った。

頼む、離してくれ。逃げてくれ。
お前まで巻き込むわけにはいかないんだ…!!

そんな願いも虚しく、下半身が重力に従って下へと引っ張られる。

「頼む!逃げてくれ!!」

叫んだ瞬間、体が宙に浮いた。
手首を掴む手は離れない。

風を全身に受け、堕ちていく。

赤い光が奈落の底から溢れている。見上げた視界に、顔が見えた。
優しく、悲しそうな笑みを浮かべたその顔は、久しぶりに見たアイツの顔だった。





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