短編

□REG
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07―PLAYERS―




崎山は、何も言わず黙々と暗い洞窟の中を歩き続けている。
その姿を見失わずに済んでいるのは、入口とは違い洞窟内部にはほのかな明かりが灯っているおかげだ。
人工的な炎の光は恐らく崎山が保っているのだろう。一定の位置を保って燭台が洞窟の壁に埋め込まれている。

地面に足音が吸収されているため、辺りは酷く静かだ。
聞こえるのは自分達の息遣いだけ。
その一つが乱れたかと思えば、僅かに掠れた崎山の声が洞窟に響いた。

「今、何年だ?」

崎山の質問に、思わず二人は顔を見合わせた。
その質問の意図がわからず、なんと答えればいいかわからなかった。
戸惑いの沈黙に気付いたのか、崎山はちらりと振り返ると目を眇めた。

「今は西暦何年だ?」

問い直されたその質問に戸惑いつつも答えたが、崎山はその答えにそうか、と呟くとまた前を向いて曲がりくねった道を進んで行く。

「俺がここに来たのは3年前。俺はREGの最初のプレイヤーだ」

崎山の言葉に嘘や冗談の響きはなかった。
静かなその声は、その言葉を信じるには充分な重みがあった。
それはただの高校生が持つにはあまりにも暗く、押し潰されそうな程の重みだった。

「俺達はこのゲームをクリア出来なかった」

崎山の声に悔しそうな色が滲む。
しかし、泉はその言葉に引っ掛かりを感じた。

今、崎山はなんと言った?

「『俺達』って、他にも誰かいるんですか?」

自分以外の人間の存在を崎山は確かに示唆したのだ。
この理解不能な状況で自分達以外にこの場所に馴れた人物が多い事は心強い。

僅かな期待に満ちた泉の声とは裏腹に、振り返った崎山の表情は心なしか険しいものだった。

「ここに来た時はお前らみたいに俺にも連れがいた。けど、あいつはゲームに喰われた」

「喰われた…?」

浜田が怪訝そうな表情を浮かべると、歩みを止めて崎山は真っすぐに二人を見た。

「この世界の中心には巨大な穴がある。俺達プレイヤーはその穴に落ちないように出口に向かわなければいけない。無事出口にたどり着けばクリアだ」

歩みを止めた崎山の背後には、ホールのような空間が広がっていた。
サッカーコート一つ分はゆうにありそうな広さの空間の中心には、半径3メートル程の穴がぽっかりと開いている。

「あれがエンドゾーン。世界の中心だ」

真っ暗な穴は、底が見えないほど深い。
エンドゾーン。
白い少女も言っていたもの。
そこに落ちるとゲームオーバーになってしまうという。
思わず一歩、後ずさってしまう。

「REGは生きている。プレイヤーを奈落の底に引きずり落とそうと虎視眈々と狙っている」

崎山は憎々しげにエンドゾーンを睨み付ける。
そして辺りを見渡すと、どこか緊張と諦めを含んだ表情を浮かべた。
浜田はその表情の変化に違和感を感じたが、問いただす前に崎山が口を開いた。

「明かりが消えたらゲーム開始だ。エンドゾーンは直ぐに追ってくる。出口に向かって逃げろ」

崎山の言葉が終わるか終わらないかのうちに、辺りは闇に覆われた。







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