短編

□REG
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05―RESTING―





予想通りこの家には誰か住んでいる様子はなく、家具等が全て揃っているにも関わらずそれらが使用された気配は微塵もなかった。
夕食を食べた後、何か手掛かりになりそうなものはないかと気が咎めながらも家の中を探索をした。
そこで出て来た地図を持ってダイニングに戻ってくると、テーブルの上に溢れるほどあった食器は跡形もなく綺麗に片付いていた。

ここまでくると流石に慣れてきたのか、二人ともそれほど驚かなくなっていた。慣れとは怖いものだと改めて感じた。

「まずはここがどこかだよな」

地図を広げてみると、いびつな地形に山や川、森などが書き込まれている。
その周りが黒く塗り潰されているのは、これがゲーム上必要のない地域だからなのか、それとも別の何かが広がっているからなのかはわからないが、ここでそれを追求しても仕方ないことだ。すぐに思考を切り替える。

改めて現在地を探そうと地図を見渡せば、そこにあるには明らかに違和感が出る光が点滅していた。
よくゲームをする時にマップ上に出て来るあの光だ。

「あー、明らかにこれだよな」

こんな状況ながら、妙に親切なその目印を指差しながら浜田が苦笑する。

「えーと、firt…?これが街の名前か?」

「多分そうだろうな」

街らしき場所や森なんかには英語が一緒に書き込まれている。
そのうちの一つに光が点っている。ここが現在地だ。

「ん?この黒い丸なんだ?」

指差した地図の中央に、まるでインクを零したような真っ黒な丸が描かれていた。
大きさはそれほどあるわけではないが、嫌に存在感があるその黒丸はこの街からさほど離れていない場所にある。

「山の上に誰かがインク零したんじゃねぇ?」

浜田の言うとおり、その黒丸の下には小さな山らしき絵が描かれている。
山と黒丸には特に共通点等は思い浮かばない。やはり無関係なのだろう。

「明日どうするよ?」

「んー…とりあえずこの街を一通り回ってみようぜ。…ん?これも街っぽくねぇ?」

浜田がfirtから少し離れた場所にあるsecoと書かれた街らしき場所を示す。
この街と規模は同じくらいだろう。
そこに人がいるのかどうかはわからないが、行ってみない事には始まらない。
何より、ここでじっとしていた所で事態が好転する事はないのだ。

ならば一か八かでも進むしかないだろう。

「よし、じゃあこの街見終わったらそこに行ってみよーぜ」

見知らぬ土地で不安がないわけではない。
けれど、独りじゃないからこそ進む勇気を持てるのだ。

二人は頷きあうと、明日に向けて体力を回復するために早々に眠りに着くことにした。

明日はどんなことが待っているのか、全く想像がつかない。

月すら見えない暗い世界で固めた小さな決意は、数時間後には呆気なく打ち破られる事をこの時の二人は知らなかった。




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