短編
□REG
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04―BK & WH―
広い場所での距離感とは当てにならないものだ。
近く見えるものでも実際は遠くにあるのだという話はよく聞く。
その例に違わず、近くに見えていた街にたどり着いたのは日が沈んで辺りが暗闇に落ちた後だった。
「なんか人の気配まったくしねぇんだけど…」
煌々とともる家の明かりとは裏腹に、街は静寂に包まれていた。
「あそこ、誰かいる」
浜田が喜色を滲ませて声をあげた。
指し示す先を目で追えば、視界の端で黒い人影がちらりと見えた。
建物の裏へと消えて行ったその影を追って慌てて走り出す。
二人分の足音が静かな街に響く。
建物の裏道は街灯もなく、月の微かな光に照らされてなんとかその姿を現している程に暗かった。
その暗い道の中央に立っていたのは、その薄暗闇の中でもはっきりとした存在感を持つ真っ白なワンピースを来た小さな女の子だった。
女の子はまるで自分達が来るのを待っていたかのように堂々とした面持ちで立っていた。
「次はお兄ちゃんたち?」
何の感情も写さない瞳は薄い光彩を放ち、整った顔立ちは日の光を知らないかのように白い。
何もかもが暗く、濃い色で覆われたこの場所において、儚い印象を与える少女は小さく首を傾げながらその年齢には不釣り合いな程優雅に微笑んだ。
「何のことだ?」
浜田が尋ねれば、少女は何故か嬉しそうに笑った。
「あのコに会って始めてね。エンドゾーンに落ちたら終わっちゃうから気をつけてね」
それだけ言うと、少女はくるりと背を向けて走りだした。
慌てて追いかけようとしたが、先程まであれほどに存在を主張していた白いワンピースも暗闇に溶け込むようにあっという間に消えてしまった。
「あの子…?」
少女が消えた先には暗闇しか残っておらず、冷たい沈黙だけが辺りを満たしている。
謎の少女に無人の街。これが現実だと言われても到底信じられない。
暗い中でもわかるくらいに顔色を青くした浜田と顔を見合わせていると、裏道に面した一軒の家の裏口がひとりでに開いた。
相変わらず人の気配はない。
「ここを使えってか…」
中を覗き込んでみれば、裏口はキッチンへと繋がっている。
その奥にあるダイニングテーブルの上には誰が誰の為に用意したのか、ご馳走と呼んでいいほどたくさんの料理が湯気を立ててテーブルを賑わわせている。
その賑わいとは裏腹に、料理を食べるべき人間はやはり一人も見当たらない。
浜田の言葉通り、その光景はまるで俺達の為に用意されたもののように感じる。
「…ここに居ても仕方ねぇし、入ろうぜ」
「そうだな」
ちらりと浜田を伺えば、小さく溜息をついた浜田は家の中を用心深く窺いながら一歩踏み込んだ。