短編

□REG
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03―UNKNOWN―




冷たい風が頬を撫でた。
ひんやりとしたその感触に意識が浮上する。
重たい瞼を持ち上げれば、手が届きそうなほど近くに空が見えた。
空は雲一つない快晴なのにどんよりと暗く、色褪せている。
今にも押し潰されそうな程の圧迫感を持って視界を埋め尽くす空に圧倒されつつ、今の自分が置かれた状況が明らかにおかしいことに気付き、体を起こす。

「なんだ…ここ…?」

体を起こして辺りを見渡せば、少し離れた所になだらかな山が見える以外、障害物などは何も見えなかった。
奇妙なのはその山で、山全体が墨で描いた絵みたいに真っ黒だ。
ぼんやりと黒い山を見ていると、背中の方で何かがもぞもぞと動く音がした。

「んん…?あれ、ここ…」

振り返れば、どこか気の抜けた表情を浮かべた浜田がキョロキョロと辺りを見渡していた。
どこかもわからない場所に一人きりでなかったことに気付いてホッと息をついた。

「一体俺達、どうしたんだ?」

「わかんねぇ。ゲームしようと思ったらいきなりテレビが光って…」

気を失う前の事を思い出していると、テレビ画面に浮かび上がっていたタイトルを思い出した。

「テレビに出てたあれって、木本が言ってたやつだよな?」

言わんとしていることがわかったのか、浜田は表情を固くして頷いた。

「REGだろ?でも俺ん家にそんなソフトなかったはずだけど…」

浜田は怪訝そうな表情で考え込む。

「ソフト確認した時は確かにFFだったぞ」

電源を入れる前に傷がないかどうか調べた時、ディスクは確かに目的のものだった。
けれど画面に現れたのは幻と言われているらしいゲームのタイトルだ。
一体どうなっているのかさっぱり理解できない。
けれど、気になるのは木本が言っていた言葉。

「REGをプレイした奴はみんな行方不明だって言ってたよな…」

REGをプレイした人間はいない。というのも、プレイした人は全員行方不明になっているからだと、木本は確かにそう言っていた。
浜田はその言葉に顔色を青くした。

「まさか、REGをした奴はみんなここに来ちまう…とか、ゲームみたいなこと言わないよな…」

ごく普通の少年がゲームの世界に引き込まれ、勇者としてゲームの中の世界を救う為に冒険をする。
正しくゲームのような展開だ。
現実的に考えて有り得ない。

けれど、どう考えてもそれ以外にこの状況を説明できることがない。それくらい、今自分達が置かれた状況は非現実的なものなのだ。

「とにかくここにいても仕方ねぇし、あそこに行こうぜ」

そう言って浜田が指したのは家が立ち並ぶ、所謂街のような場所だった。
そう遠くもなさそうなので日が暮れるまでには辿り着けるだろう。
先程は全く気付かなかったのは、単に見落としていたからか、それとも…

「行こうぜ」

早速街へ向かって歩き出す浜田の後を慌てて追い掛ける。
一抹の不安を抱えながら後ろをちらりと振り返った。
ドキリと、心臓が嫌な音を立てる。

確かにあったはずの黒い山が消えていた。




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