短編
□REG
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01― R E G ―
「REG?」
なんだそれ?と怪訝な表情を浮かべて隣にいた浜田に視線をやるが、浜田も聞いたことないのだろう。肩を竦めて木本を見た。そんな俺達の様子に木本はなにやら喜々として説明しだした。
「REG。通称レッグって呼ばれてんだけど、最近噂のゲームなんだ」
「ゲーム?どんなやつなんだ?」
浜田が首を傾げると、木本は待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべてじっくりと間を開ける。
「…それがな、不明、なんだよ」
ニヤッと笑う木本の言葉に、思わず浜田と顔を見合わせる。
何が面白いのか、木本は何故か自慢げに俺達の顔を覗き込んでいる。
「お前、何も知らないゲームの自慢しに来たのか?」
昼休みの貴重な睡眠時間を返せ、と木本の首根っこを掴むと、木本は慌てて俺の腕をパシパシと叩いた。
「違うって!ホントに内容は誰にもわかんねーんだってばっ!クリアしたって奴もいねーし、まずプレイした奴すらいねーんだよ!」
「はぁ?」
木本の言葉に思わず疑問と共に溜息が出る。
「まだ発売してねーゲームの話とかだったら殴るぞマジで」
「してるしてる!もう3年くらい経ってるって話だよ」
握りこぶしを作って見せれば、木本は一歩下がって両手で顔をガードしながら叫んだ。
「レッグをプレイした奴はいないって言ったけど、ちょっと意味が違うんだ」
「どーゆーことだよ?」
握りこぶしを解けば、木本はホッと息をついて近くにあった机に座った。
どこか深刻そうな表情を作る木本に、なんとなく緊張感が漂う。
「プレイした奴は今まで何人かいるらしいんだ。けど、そいつらみんな行方不明らしい」
まるで内緒話をするように声を潜めた木本の言葉に、思わず眉を寄せる。
「噂じゃプレイヤーは皆レッグに喰われたって言われてる」
「はぁ?」
突拍子もないその話は、信じるにはあまりにも非現実的すぎる。
そんな話を信じている木本に何か言おうと口を開きかけた瞬間、昼休みの終了を告げるチャイムが響き渡った。
「ヤベッ!俺5限当たるんだった!!」
そう言うと木本は挨拶もそこそこに慌てて自分の席へと帰っていく。そんな木本を笑いながら浜田も席へと戻っていく。
言い逃げとはまさにこのことだと思いながら、俺は5限の準備を始めた。
「泉ー、今日部活休みだよな?」
どうする?と聞きながら浜田が鞄を持ってやって来る。
田島と三橋は先程早々に家へと帰って行った。今日は三橋の家でパワプロをするらしい。
そういえば俺も途中のゲームが浜田ん家にあったな、と思いながら席を立った。
「お前ん家にFFまだおいてたよな?」
「ん?ああ、あったな」
浜田もすっかり存在を忘れていたのか、少し考えて頷いた。
「確かボス戦前で寝ちまったんだよな。それしに行く」
「おー」
そうと決まれば善は急げだ。
俺達は学校をあとにした。
その頃には昼休みの話などすっかりと頭から消え去っていた。
たとえ覚えていたとしても、俺達に防ぐ術なんかなかったんだ。
それは幻のゲームでもなんでもない。
言うならば、悪魔のゲームだった。