短編

□REG
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11― A O I ―





青い空には雲一つなくて、蝉の声は夏の訪れを歓迎しているように辺りに響き渡っていた。
じわりと汗が滲んだ肌にカッターシャツがひたりと張り付いていて何となく落ち着かない。
終業式が終わった後の校舎はひっそりと静まり返っていて、グラウンドから届いてくる部活動生の威勢のいい声くらいしか人の声は聞こえてこない。

いつもより軽いかばんを持って二つ隣の教室まで走る。
覗き込んだ教室には一人しか人はいなくて、入口に背中を向けて机に腰掛けたまま開いた窓から空を見上げていた。
肩辺りで真っすぐな黒髪が窓から入り込んで来た風に吹かれて小さく揺れている。

「アオイ」

呼び掛ければ、アオイは振り返った。

「遅い」

「ワリーワリー。ちょっとクラスの奴らと話しててさ」

特に怒った様子もなく、アオイは小さく肩を竦めただけだった。

「その友達と帰ればいーのに」

「そいつら今から部活だもん」

「だもんとか男が言わない」

アオイがかばんを取って二人で教室を出る。
廊下にはもう誰もいなかった。
静かな廊下に二人分の足音だけが響く。

「さっきクラスの奴に聞いたんだけどさ、REGって知ってる?」

「どーせまた新しいゲームかなんかでしょ?」

呆れたように笑うアオイは、まるで全てお見通しだと言わんばかりだ。
でも実際お見通しなのだから敵わない。

階段を下りて右へ曲がろうとしたら、昇降口の辺りに人影がちらついたのが見えた。まだ誰か残ってたみたいだ。

「そーなんだけど、なんか幻のゲームなんだって」

「幻?」

「最近発売されたってネットで噂になってんだけど、どこにも売ってないんだって」

「ガセネタとかなんじゃない?」

「……夢ないことゆーなよなー」

靴箱から自分の靴を取り出しながら少し離れた場所にいるアオイを睨めば、アオイは肩を竦めながら自分のクラスの靴箱に向かった。

「えっ?」

カタッと軽い音と一緒にアオイの驚いた声が聞こえた。
靴の踵を踏んだまま、背を向けてしゃがみ込んだアオイに近付く。

「どうした?」

「ん?なんか入ってた」

「ラブレター?」

「ばか」

ケラケラ笑いながらアオイの手元を覗き込めば、その手にはプラスチックのケースが握られていた。
中にはディスクが虹色の輝きを放ちながら収まっている。特になんの変哲もない代物だ。

「あ、なんかタイトル書いてる」

ひっくり返して裏を見れば、虹色の光沢に混じってうっすらと文字が見える。

「R……E…G…?」

「…REG?って、え、マジで?」

アオイからケースを受け取ってまじまじと眺めると、確かにその表面にはどことなく崩れた字体であの幻のゲームのタイトルが書かれていた。

「おー!これ本物かな?」

ケースを開けて中に入っているディスクを取り出すと、アオイが気味悪そうに眉間に皺を寄せているのに気付いた。

「これ、どっか置いとこうよ。悪戯にしてもなんか気持ち悪い」

どこにでもありそうなゲームソフトに怯えるアオイが面白くて、思わず吹き出してしまった。

「気にしすぎだって。どーせさっき話してた奴らが入れたんだよ」

先程教室でREGの話をしていた友人がアオイの下駄箱に入れて自分の元に届くようにしたに違いない。悪ふざけが好きなアイツ等だったらやりかねないと思い、たいして取り合わなかった。

「ま、あいつらが作った幻のゲームとやらがどんなのか、帰ったら見てみよーぜ」

ひらひらとディスクが入ったケースを振れば、太陽の光が反射したのか、ケースが一際明るく光った。
一瞬で消えるはずのその光は、収まることなく瞬き始める。

「え…!?」

二人の声が重なったかと思った瞬間、光はさらに強まり、そのあまりの眩しさに目を閉じた。

「トオル!!!」

アオイの声が響き、そのまま意識は暗闇へと堕ちていった。




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