短編
□過去拍手集2
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「やっ!」
ガキィン!と金属音が散った。
「お、やるじゃんおちび。俺様の背中守れるようになったんだ?」
「当然ですよ!いつか師匠が安心して背中を預けてくれるようにあたし、まだまだ強くなるんですからね!」
「あっはは、頼もしー」
軽く笑い飛ばしながら、師匠…猿飛佐助はまた一人敵の忍を撃墜した。
…自分で言うのもなんだけれど、師匠とあたしは真田忍隊きっての手練。
とはいえ、師匠とあたしの実力は天と地ほどに差がある。
師匠はすごい人だ。
何でもできるし、とても強い。
本当に本当に師匠はすごい人だ。
あたしがくのいちじゃなくて戦忍になったのも、師匠が勧めてくれたからっていうのもあるけど、少しでも師匠に近づきたかったから。
あたしは誰より師匠を尊敬してる。
師匠はあたしの全てだ。
だから、師匠の背を守って死ねるなら、あたしにとってこれ以上幸せなことはない。
「…しかし、それでは佐助が悲しむのではないか?」
「もう!幸村さまはわかってないなぁ。師匠はそんなことで悲しむような人じゃないんだよ。忍の中の忍なんだから!盾になって守ればきっと師匠も褒めてくれるよ」
「……そうだろうか…」
幸村さまはいつも不服そうに言葉を濁すけど、やっぱり武将の幸村さまには忍が何たるかなんてわからないんだ。
師匠を守ることが、あたしの生き甲斐なのに。
…だから師匠、盾にするなら絶対にあたしを使ってね。
それがあたしにとっての、最高の誉れだから。
「師匠っ!」
「!」
師匠の背を狙った大量の手裏剣を一気に受け止めた。
あたしの力ではそれが精一杯。
数が多すぎて跳ね返しきれない。
いくつかの刃があたしの頬や髪を削った。
あと少しでも数が多ければ…首、飛んでたかも。
「…おちび」
「安心はまだできないかもしれないですけど、絶対師匠の背中にはあたしが傷一つ付けさせませんから」
「…髪、切っちゃってまあ」
「え?髪ですか?」
「…んーん、いいや。突破するよ。しっかりついてきな」
「はいっ!」
師匠と一緒に戦える、それだけで幸せ。
それ以外、何もいらないの。
「…それは、あんたにとって恋じゃあないのかい?」
「こい?なに?」
「それって…なんだか悲しいよ」
度々みんな、おかしなことを言う。
「…お前がそれでいいなら、もう何も言わねえがな」
「何それ、引っかかる言い方しちゃって」
「…いや、だが猿飛はそれを望んでねえんじゃねぇかと思ったまでだ」
「そんなことないよー。変なの」
前田のとこの兄さんや伊達のとこの兄さんが何を言いたいのかはよくわからない。
あたしは今師匠といられて幸せだからそれでいいのに。
どうしてみんな、あんな顔するんだろう。
「誠にございますかお館様!」
「…?」
幸村さまの声だ。
「佐助が…彼女を置いて任務に着くなど…」
え……!?
「奴が強く望んだのでな。あの娘をこの任務に関わらせぬようにと」
「しかし佐助一人では危険すぎやいたしませぬか!?下手をすれば…!」
「…っ!」
どうして!?
師匠があたしを置いていくの…!?
「師匠っ!」
「…!おちび」
「なんでっ…一人で行っちゃうんですか!?あたしも一緒に」
「だーめ」
「どうしてっ!」
「おちびさー、こないだ怪我したでしょ。髪まで切っちゃって」
「こんなの何でもないですよ!髪なんてなおさら!そんなこと気にしてたら師匠を守れないじゃないですか!」
「…そうだよなぁ。おちびをそう育てたのは俺様だし」
やれやれとため息をついて、師匠はあたしに近づいた。
「俺様の言うことがきけない?」
「……こればっかりは」
「ふーん…」
「っ!?」
だんっ!という鈍い音と共にあたしの体は地面に叩きつけられた。
腕を押さえられて身動きがとれない。
「師匠…?」
「あのさ、俺様がいつもどんな心持ちでおちびを側に置いてると思ってんの。なのにおちびってば俺様守って死ぬの一点張りじゃん。やるせないよなぁ。俺様にどうしろってのさ」
「え………」
「まぁそう育てた俺様にも責任はあんだけど。理屈じゃないんだよなこういうの。だからそろそろさー、いい加減気づきなよ」
「ししょ……」
「……お前が、大切なんだって」
…ずっと心に抱いてきた全てを、風が見事にかっさらっていった。
終
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師匠である佐助と、弟子の話。
教育とは洗脳である。
ということです。
弟子として可愛がってるうちに柄にもなく愛情を抱いてしまった佐助師匠。
「やるせないよなぁ。俺様にどうしろってのさ」
これが彼の本音。
自業自得なのに何言ってんの師匠(笑)
執筆日 7.19〜7.27
12.9.10