短編
□過去拍手集2
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いわゆる草木も眠る丑三つ時という頃。
音もなく寝室に降り立って、得物の刃先を標的に向ける。
「……」
なぜかため息がこぼれ落ちた。
…上からこれ以上待てないとの命だ、致し方ない。
この男は敵で、あたしは忍なのだから。
…悪いわね、あんたには別に恨みなんてないけど。
やらなければ、あたしが始末される。
ただそれだけの話。
「Hum?ずいぶんと憂鬱そうじゃねえか」
「!」
「顔色悪いぜ?お前らしくもねぇな」
「政宗…!あんた、起きてたの…?」
「Of course…お前の気配がわからねぇほど腑抜けちゃいねえよ」
「……」
…気配消してたつもりなんだけど。
「あたしが裏切り者だってことも気づいてたってわけ…」
「Haha、…どうだろうな?」
「驚いてないじゃない」
…やられた、というより甘かったか。
結構長時間かけて仕込んだつもりだったんだけどな。
……だけど、だから何だってのよ。
「…悪いけど、情が移ったとかそういう考えは捨てた方がいいわよ。仲良しごっこもこれでおしまい。…ま、案外楽しめたわ」
「……」
そう、こう言っておけば何も言い返さないでしょ。
全部全部嘘だったのよって、嘲笑ってやればもうおしまい。
…だって、あんたを殺さなきゃあたしが危ないんだから。
「また逃げんのか」
「……は?」
「お前はいつもそうだな。選択を迫られるとその薄っぺらい笑顔貼り付けて逃げやがる」
「…知ったような口利くじゃない。あんたがあたしの何を知ってるってのよ」
「I know、何でも知ってるさ。お前がこんな単純な選択も恐れるような女だってな」
「しくじればあたしが殺されるのよ。…だったら…」
「ならそいつを今すぐ俺の首に突き立てりゃいい。…それでしまいだろうが」
「…!」
…なんてこと、言うのよ。
なんで…そんな顔して言うのよ…!
「選ばせてやる。好きにしろ」
「…好きに、って」
「逃げるな。今すぐ選べ。…俺はもう決めた」
「決めた…?」
「俺は俺自身を信じている。だから俺は、俺が惚れたお前を信じる」
「!?」
…何……言ってんの…?
「選べ」
何を言ってるのよ…!
これ以上…あたしを惑わせないでよ…!
…政宗……!
「今すぐ選べ。主を裏切るか…俺を裏切るか」
「……」
「俺は覚悟なんてとっくにできてる。お前が恐れる脅威から、お前自身を守ることぐらいなんでもねえ」
………あたし、なんで泣いてるのよ…
なんで、この手を振り下ろせないのよ…!
…なんであんたは、この状況であたしを許せるっていうのよ…!
「…なんで……」
「Ha、野暮だな。何度も言わせるなよ。…これでも俺は、心底お前に惚れてんだぜ?」
「っ!?」
腕が…!
「Now I have you…逃がさねぇさ。絶対に」
…ああ、あたし。
逃げ場なんて最初からなかったの。
「お前は、俺のものだ」
…蒼い竜が、牙を剥いた。
終
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今回は政宗様と「敵」の彼女。
政宗に近付いて仲良くなったから顔見知りだけど、ほだされたのは両者共。
でもここは政宗様。
欲しいものは力尽くでも手に入れたい。
強引な誘導尋問です。
彼女は彼女で最初から憂鬱そうでしたしね。
敵味方シチュは好きなのでまたやりたいです。
執筆日 2.22〜2.26
12.4.15