黒バス

□祝福の花火の音を、君と。
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「屋上、いこうか」

「おう」

体育館、教室、職員室、廊下校庭。みんなみんな華やかで、ちょっと切ない。泣き声と笑い声が混じった、学校。今日が最後だ。階段をゆっくり、2人で上がって行った。

「今日で卒業って、改めて実感すると、なんか寂しいね」

「そうだな。3年間、あっという間だったな」

「うん」

少し汗ばんだその手が、とても愛おしい。


「好きだよ、笠松」

「あぁ」

それ以上はなにも言わなかった。ただ、そっと手を繋いで指を絡めた。



夏の日の事。部活を終えた帰り道、一緒に歩いていた笠松にあたしは1つのポーチを差し出した。笠松が持つには似合わない、可愛らしいピンクのポーチ。

「これ、預かってて」

「なんだよこれ?」

「ライターとケータイ灰皿。タバコは捨てた」

「ふーん。じゃ、禁煙すんのか」

「そ。笠松にあたしのお願い聞いてもらわなきゃいけないから」

『お願い』と聞いて、笠松は困ったような、照れたような表情をした。お願いの内容は、笠松にとってすごく恥ずかしいらしい。可愛いなぁ、なんてちょっとにやけながら笠松を見ていた。

「***、顔。気持ち悪ぃ」

「ひっど!」

悪態をつかれてしまった。そんだけ照れてるって事だとは分かってるけど。

「まぁ、良い事だしな。応援、する…」

「あ、ありがと…」

なんか、応援されてしまった。そんな言葉が出てくるとはびっくり。これは盛大に行かなきゃ。そう決意して、今日がその日。あたしと笠松の約束の日。
ゆっくり屋上へと続くドアを開けた。


「うっわぁ」

「すっげ…」

「すごーい。こんななるんだ」

久しぶりに扉を開けた屋上は、一面の桜の花びら。ピンク色の絨毯を敷き詰めたような、そんな感じ。まるであたしたちを祝福してるみたい。

「***」

「はい」

まっすぐな瞳があたしを捕らえて離さない。あたしの目にも、笠松しか映らない。

「卒業、おめでとう」

「ありがとう。幸男も、おめでと。これからも、ずっとずっと一緒にいてね」

笠松は一瞬目を見開いたが、すぐにあたしにキスをしてくれた。唇を押し合わせるだけのキス。照れ屋な笠松らしい。あたしは右手の人差し指と親指で丸を作って合図をした。


ヒュー ドーン


「…あ?なんだ?」

「あ、上がった!」

「花火?」

「うん、花火…」

ヒュー ドンッドーン

「笠松先輩、***先輩、卒業おめでとうっス」

「おめでとうございます!」

「良かったな、笠松、***」

屋上の出入口の上から顔を出したのは、バスケ部の仲間たち。そしてパンッ、パンッとクラッカーを鳴らしてくれた。あたしは笠松に内緒で、ずっとこの計画を練っていた。

「お、おま…。お前ら何してんだよ!」

「おー、真っ赤」

「茶化すなシバくぞ!」

茹で蛸みたいに真っ赤になった笠松。笑顔のみんな。あたしはもう泣きそうだ。

「夏からずっとこうやってやりたいなって、計画してたの」

「***お前な…」

「だって、卒業式の日に屋上で初キスだよ。盛大にやりたくって…」

「え、お、おい、***っ。泣くなよ…」

ずっと堪えていたのに、ブワッと込み上げてきて溢れて、涙になって零れた。あーあ、笠松何してんだよ、***泣かすなよー、なんて森山がからかった。笠松はどうしたら良いかわからないらしく、アタフタアタフタ。ああ、こんな日常も、今日で終わってしまうのか…。

「みんな、ありがとうね」

「オレらのキャプテンと、***先輩ためっスから!」

「そうそう。卒業式の日に屋上で花火打ち上げて良い思い出になったし?」

「そーだなー」

「うん。ありがとう」

あたしはとなりの笠松の手をギュッと握った。あ、そうだ、円陣組まなきゃ!あたしの思いつきにみんなは快く応じてくれた。

「海常バスケ部、サイコー!!」

「おー!!」

卒業したって、ずっとずっとずっとずっとずっと。いつものメンバーで
最後の円陣を組んだ。






おまけ

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