黒バス

□短い春
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「もっ、森山先輩!」

教室の入口に立ってる1年生はちっちゃくて、触ったら壊れてしまいそう。守ってあげたくなるような年下の女の子って感じでかわいい。そんな子に呼ばれるなんて!
残念なイケメンなんて言われるオレにもついに春が来たんだな!涙を流してしまいそうな程感動してる。

「森山先輩?」

「あ、あぁごめん。それで、どうしたの?」

「あ、あのですね。この間、森山先輩が私のこと、かわいいって、運命の人って言ってくれたから…」

……。これはまずい、非常にまずい、思い出せない。下手な鉄砲数撃ちゃ当たる、とはいえ、撃ちすぎて当たらなすぎて、いつどこで会ったどの子だかわからない!

「あ、うん」

「それで、えと…。今日、お昼、一緒に食べませんか…?お弁当も作って来たんです。森山先輩結構購買で見かけるので、お弁当、持ってきてないかなぁって思って…。あ、迷惑だったら全然…」

「いいよ。それに今日は何も持ってきてないからちょうどいい」

あああ!いいよって即答してしまった!誰だかわからない、やばいって言った直後なのに!昼休みの間、間が持つのか不安になってきた。でも女の子がせっかくオレのために弁当まで作ってきてくれたのに断るのは男としてどうかと思う。大丈夫、大丈夫だ。

「あ、これ。私のメアドと番号です。もし、遅くなるとかなにかあれば連絡ください」

メアドの書いてある紙を受け取ると、チャイムが鳴り響いた。

「また後で会いましょう!」

メアドを見たら彼女の名前がすぐにわかった。ローマ字で名前が入っている。あー、そうだ***ちゃんだ。この間、廊下で他の生徒とぶつかって転んだとこを起こしてあげた子だ。で、確か話してる途中で笠松に早く来いと邪魔された時の子だ。
そのあとは誕生日であろう数字。わかりやすくて助かった、とホッとしたのも束の間。数字の後のlove.y.mは何だ…。由孝、森山。……オレか!?えええ…。いやいやいやないないない。でもこれオレ以外の誰かだったらなんか癪だな…。でもオレだったら?まだ付き合ってもないのに?あれ「付き合って」とか言った?

「やっぱり物好きはいるんだな。よかったじゃねーか」

「あ、あぁ。そうだな」

「どした?なんか目ぇ泳いでね?」

「いや、大丈夫、大丈夫だ」

自分で自分に言い聞かせてるようだ。付き合ってと言ったとしても、Yesと答えてたら忘れない。笠松はあからさまになんだ?と言いたげな顔をしたが何も言わなかった。
4時間目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると、少しの不安と期待を胸に屋上へ向かった。***ちゃんは3段の重箱を抱えて少し遅れてやって来た。

「あっ、すみません、待たせましたか?」

「そんなに待ってないし、大丈夫だよ。それよりずいぶん重そうだね」

「朝、4時で起きて一生懸命準備したんですよ。森山先輩の口に合うかはわからないですが…」

じゃあ、そこのベンチに座って食べようか。腰掛けて重箱を開けると、色とりどりの見るからに美味しそうなおかずがきっちり詰められていた。口を付けると、おにぎりも卵焼きもから揚げも、すべて美味しいと来た。

「すごいうまい。開けた瞬間からびっくりしたけど、料理上手いんだな」

「料理は好きなんです。褒めてもらえてうれしいです」

***ちゃんの健気なところがまたかわいい。ザ・いい子!って感じ。良い奥さんになりそうだ。

「ところで、私が『はい』って言うだけで、いいんですよね…?」

「え?何が?」

「何って、付き合おうって話ですよ。『***ちゃんはオレ運命の人だ。付き合ってくれ』って言ったじゃないですか」

あ、やっぱ言ってた…。言ったけど***ちゃんはいって返事する気なのか。そうか…。こんな可愛い子がか!このままこの喜びを叫びたい。でもなんか複雑な気分。

「だから、私と付き合ってくださいね。森山先輩」

「あ、はい…」

彼女ができた嬉しさよりも、大きなもやもやに襲われた。***ちゃんは可愛いし、いい子だし、何故そんな気持ちが湧くのかわからない。(かわいい子なら)誰でも良いから付き合いたいとか言ってたオレは何処へ行ってしまったのやら…。









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