黒バス

□森山と二番手の女の子
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「そこのお姉さん!」

「…はい?私ですか?」

「そうです貴女です!こんなところで貴女の様な美しい女性に逢ったのも何かの運命。これからちょっと、お茶でもどうですか?」

「んー。いいですよ。わたしこそ貴方みたいなカッコイイ人に声をかけてもらえて光栄だわ」

それから近くのカフェでお茶をして連絡先を交換した。年上と思うほど落ち着いた応対をする彼女は実は同い年で、海常から程近い学校の生徒だった。***ちゃんもオレを年上だと思っていたらしい。同い年だとわかった瞬間、一気に言葉遣いが変わった。


「笠松、小堀、聞いてくれ!オレ初めてナンパ成功した!」

「は?冗談だろ。それかあれだ、遊ばれてるか」

「ホントだって!写メもある!」

***ちゃんと知り合ったのが嬉しくて、次の日には笠松や小堀や、笠松んとこに来てた黄瀬に写メを見せて自慢した。

「へー美人さんっスね。なんで森山センパイになんか着いてったのかわかんないっスわ」

「世の中物好きもいたもんだな」

「まぁ、よかったじゃん?」

とそれぞれお祝いの言葉をくれた。「祝ってくれてありがとう!」と言ったら笠松がドン引きした顔をして、小堀と黄瀬は引き攣った顔で笑ってた。


今思えば、***ちゃんの様な美人がオレなんかがナンパしてついて来る時点でおかしいと何故気付かなかったんだろう。

「***ちゃん?」

「あ、由孝くん。なにしてんの、こんなとこで」

「***ちゃんこそ、なに、してるんですか…」

「なにとか、聞いちゃうんだ」

誰、そいつ。オレは笠松が言うように遊ばれてただけ?ナンパで断られるのも苦笑いされるのもフラれるのも、慣れてて。そりゃあまぁ、悲しくなる時もあるけど、こんなに気持ちははじめてだ。

「その人、***ちゃんの彼氏?」

「うん。そうだよ」

信じらんない?そう言いながら***ちゃんは男から離れた。***ちゃんと同じ学校の制服を着たその男は、無言で、こちらを見ることさえなく立ち去った。

「彼氏、いたんだ」

「うん。聞かれなかったから言わなかったけど」

オレとは遊びだったの?と喉元まで出かかったが飲み込んだ。これは言ってはいけない。いかにも1回2回のデートで彼氏気取りの奴が言いそうな感じがする。それ以上に惨めになる。

「あ、あぁ。そうなんだ」

動揺が声になって、表情になって出てきた。
『こないだ森山センパイがナンパ成功した彼女に良く似た人が、駅前のラブホに男と入ってったっス。多分、人違いじゃないと思う』と黄瀬からメールが来た。違う、人違いだと祈りながら駅前へ急いだ。こんな最悪な形で出会うなんて思ってなかったのに。こんなことになるなら写メなんか見せなければ良かった、でも見せておいて、黄瀬から報告をもらえて良かったとも思う。

「私達付き合ってる訳じゃないし、どうこう言われる筋合いないよね」

「うん。そう、だな」

その通りだ。オレ達はまだ、ただの友達だ。友達が誰と付き合おうと自由じゃないか。むしろ彼氏がオレといることを怒るべきなのだ。

「だって由孝くんいろんな子に声かけてたし、私だってその内の1人だし、そういうつもりなんだと思ってた」

「オレは本気だったよ」

***ちゃんはじっとオレを見つめた。呆気に取られたような、何か面白いものを見るような眼差し。なんだろうこの胸の苦しさは。馬鹿にしてるのか何なのか。あぁ、どんどん惨めになって行く。
この調子じゃあそういう相手は他にもいるんだろう。ナンパでついて来るような女の子に本気になった時点で負けだったのか。

「遊びだと思ってたからついてったのに。だって由孝くんも彼女いるでしょ」

「………」

「あ、え?そうなんだ。なんかごめん」

うっわぁ。今のは刺さった。グサッときた。めちゃくちゃ痛い。オレこの痛みで死ぬかもしんない。

「でも二番目とかでも良いんじゃない?私もさっきの人の二番目だし。そういう感じでさ」

「あー。***ちゃんって…」

「何?」

「いや、なんでもない」

結構激しい遊び方してるんだなぁ…。女子高生って、こんなただれた様な恋愛をしてるのか。キレイな顔してやることはすごい。二番目でもいいでしょ、そんなことどこぞの女性国会議員みたいなこと言わないで。何だか悲しくなってきた。くるり、***ちゃんに背中を向けた。

「考えとくよ。遊びたくなったら連絡するから」

「うん。待ってる」

言葉にせず、目も見ず、手を少しだけ振ってさようなら。泣きそうだからじゃなくて、顔を見たら揺らぎそうだから。***ちゃんは今、どんな表情でオレの背中を見てるのだろうか。本当に待ってるつもりの顔や寂しい顔をしてることはないだろう。どうでも良くなってケータイ弄ってるんだろうなぁ。でも、もしかしたら…。そう思って後ろを振り返ると***ちゃんは雑踏に紛れて、先程の場所にはいなかった。

「はぁ…」

ケータイを取り出して、電話帳を開く。えーと、***ちゃん、***ちゃん…。削除しますか?のメッセージに迷いなくYESと答えた。もう会うこともない。

「短い青春だった…」



「聞いてくれ笠松、小堀。***ちゃんと終った」

「……。早いな…。2週間ももってないじゃねーか。つーか終ったもなにも付き合ってないだろ」

「あぁ…。終った」

「オイ、人の話聞けよ」

笠松の話は耳には入るが頭には入ってこない。あぁ、ちくしょう。頭を抱えて机に突っ伏した。もう何も見えない真っ暗だ…。

「ダメージ相当だな…」

「あぁ。黄瀬に頼んで紹介してもらえば…。あー、無理か…」

黄瀬も森山になんか紹介したくないだろうな。黄瀬自身の評価がた落ちだろうし。という笠松の悪態にも、突っ込む気力がない。

「はぁ…」

「まあまあ、元気出せよ。女の子ならいっぱいいるだろ。また探せって」

「かわいい女の子がいい…」

「はいはい」

なんだか何もする気が起きない…。だるい。今日は部活さえ出ないで今すぐ帰りたい気分だ。部活出なきゃ笠松が怖いから行くけど。

「かわいい女の子探せばいいだろうが。いい加減シャキッとしろ!」

ビシッと、頭を叩かれた。憂鬱だ…。誰かオレを好きになってくれる子はいないのか!?

「おー、森山ー!」

「んー…」

「1年がお前のこと呼んでるぞ」

1年?黄瀬じゃないだろうし、誰だ?部の後輩だって、まず笠松に行くのに。

「女子が、お前に話あるって!」

「なっ!」

こ、これは!ついにオレにも春が来たのか!?
教室の入口に立ってる、控えめなかわいい女の子。来た、オレにも春が来た!






 

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