黒バス

□狼煙を上げて君を待つ
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ジッポーの音が好きだ。フタを開ける音、火が着く音、フタを閉じる音。煙草はあれもこれもとどれが好みのか色々試している。

「ふー」

はじめはやっちゃダメと言われること程やりたいみたいな、好奇心から。最初の1本は本当に不味かった。今もおいしいとは思っていない。
不良と言われたり、他人に迷惑はかけたり、退学なんになったりなんて嫌。どうやったらバレずに学校で吸えるか悩んで結局、よく学園ドラマなんかで見るのと同じく屋上の出入口の影でひっそりと煙をあげてる。なんか棚みたいなのがあったから、そこに消臭スプレーを置いて教室に戻る前に使う。

「***」

「あ」

「あ、じゃねーよ。なにしてんだよ」

「いる?1本あげようか」

はぁ…。と短くため息をついた。いつもの凛々しい眉毛が下がった。

「いらねーっつの」

「あ、そう。まぁ笠松は、いらないよね」

笠松は時々エスパーみたいにあたしの行動を見抜く。ただ単純に頭の出来の違いなのかもしれないけど。
も一度煙を肺に取り込んだところで、没収された。と、思ったら笠松がそれに口をつけた。

「うっわ。まず…」

顔をしかめて地面に落として踏み付けた。

「最初はまずいだけだけど、だんだんクセになると思うよ」

「……はぁ。ケータイ灰皿。出せ」

「ん…」

あたしのせいで、ずいぶんと慣れたもんだ。1年とちょっと、毎日の様に繰り返して慣れるなってのも無理があるか。
最初の頃はやめろと怒られた。しばらくしてもあたしが言うことを聞かないからやめない理由だったりやめれない理由を聞いてきた。最近は聞かずに近くにいる。

「やめないからって、あたしのこと嫌わないでね」

「そんくらいで嫌わねーよ。でもそんくらいの事で好きにもなれねぇ。ダメだって決まってんだしよ。ハタチになるまで我慢しろ」

あぁ、あたしのこと好きじゃあないのか。好きじゃないのになんでこうやって毎回来れるのかな。

「めんどくさくならない?」

「たまにな。***がずっと普通に教室にいりゃあ良いのにとはよく思うよ」

棚の扉を開けて、消臭スプレーの霧を浴びる。ついでに笠松にも掛ける。せっけんの香りとか好きそうだなって思って選んだやつ。
こっちのがいい匂いがする。

「どうしてやめないんだ?実際なくても生活できるだろ?」

灰皿の中に何も入っていないからそう思ったのかな、とても鋭い。実際なきゃないで構わないんだ。でもこの人はあたしの気持ちには気づかないんだ。

「吸わないと5割しか働かない頭が、吸うと7割働くようになるからかな」

「それでも7割かよ」

笠松がフッと笑った。そういえば笠松の笑った顔、久しぶりに見たかも。

「でも1番の理由はそれじゃないけど」

笠松が呆れながらもあたしの出した紫色の狼煙に気付いてここに来てくれるから。それだけ。
乙女チックですごくばか。他にどうやって気を引けばいいかわからない。

「禁煙成功したら、なんか1つ***の願い事きいてやるよ」

「じゃあ。…卒業式までに禁煙成功させるから、式が終わったら屋上でキスして」

「やれるもんならな」

階段で上から見下ろす笠松の耳が赤くなってたのは言うまでもない。笠松のためならその位苦じゃないよ。
バスケ部の後輩に声かけて、卒業式のあとはここで花火上げてもらおうかな。きっと黄瀬あたり、ノリノリでやってくれるだろう。

「楽しみにしてて」








 

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