おお振り短編

□先輩
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「あ、***サン」

「あれ、呂佳だ。どしたの?みんなもう帰ったよ?」

練習を終えて部員が重い体を引きずって帰った後。閑散とした部室から一人、マネージャーの***サンが出てきたのが見えた。

「帰ろうとしたら***サンが一人で部室から出てくるの見えたんで、何してんのかなって…」

「グラウンドはみんなが整備してるでしょ?でも部室は誰も掃除しないからさ。サラっと掃除」


この人はいつ見ても他のマネージャー達とは違う。そう思った。***サン以外はみんな帰った。ましてみんな帰った後の部室の掃除をしようなんて、他のマネージャーは考えつかない。


「***サン、カッコイイっす」

「えー?そこは可愛いって言ってほしいなあ。あたし女の子だし」

戯けたような笑顔で笑う。その表情がまた、***サンは大人なんだと感じてしまう。2学年違うだけで、大きな差を感じる。

中学の時からそうだ。***サンを追いかけて、オレが***サンのいた3年生の、先輩の位置についても、やっぱり***サンみたいに強くて優しい、カッコイイ先輩にはなれなくて、遠くて。届かなくて。それでも諦められなくて、好きで、好きで。

「好きです、***サン…」

「え?」

目を丸くして一瞬固まったようだった。目を左右に動かしたあと下を向いて、仕上がっていない作り笑い。

「呂佳は1年だし知らないかもしれないけどあたしさ…」

「キャプテンと付き合ってるのは、知ってます。結構有名です」

「そっか」

そっか。その一言が胸にひっかかる。

(そんな物憂い表情で、オレを傷つけずにすむ言葉を探してるんすか?)

「あー。えっと…」

男として、恋愛対象として見てほしいのにオレは小くて、道端の石ころみたいで、***サンの目には届かない。

「優しくて、部員思いで誰よりもいろんなことに気付いて。みんな帰った後までみんなのために働くとかなかなか出来ないっすよ」

仕方がないんだ。見てもらえない切なさより、***サンに悲しい顔をさせる方が苦しい。
ゆっくりと顔をあげ。視線がオレを捕らえる。

「オレ、***サンみたいな先輩になりたいっす」

「…はぁ?そういう意味の好きなの?」

「え?は、い」

おでこに手を当ててしゃがみ込み、はぁー…、と深いため息をついた。

「心配して損した!三角関係で部内がぐちゃぐちゃになったらどうしようかと思った!!」

「あ、すいません…」

「……。まぁいいや。帰ろ」

月に向かって思い切り伸びをして数歩進んで振り返った。

「あ、お詫びに暗いし家まで送ってよ。で、今日バイバイしたら呂佳は自分の発言に責任持って、あたしのことは諦めるか別れるまで待ってなさいよ」

「……はい、先輩」

全く、先輩には、***サンには敵わない。でもそんなところがまた、大好きだって思うんだ。





あとがき

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