Text

□純粋な気持ちに悪意は無いのだろうが、
1ページ/1ページ



本日午後三時頃、ベル先輩がスクアーロ作戦隊長に大っ嫌いだとふざけたことを言って隊長が飲んでいたいい香りのする紅茶をぶっかけられてました。それはもうあっついあっつい紅茶を。紅茶は飲めない程熱いものは出さないのだが、運が悪かったのか。
ベル先輩の方が隊長より背が、ちょっとだったかな、かなりだったかな、まあミーから見たら両方でかいけど低いじゃないですかー。
だから思いっきり頭っからぶちまけられてあの面白いふわふわした髪型から湯気が立ってましたよーあっはっは。あれはミーも笑ってしまいました。だって先輩のいつも鬱陶しい前髪の下で見えない瞳が、濡れても全然露にならなくて、だけどミーの円らな目で確認した限り悲しそうに映ったから。


「ばっかじゃないんですかー?自分から言っといて」

そんな捨てられた、みたいな顔、堕王子にする資格無いと思うのはミーだけじゃないはずです。自分から仕掛けておいて落ち込むだなんて計画性無さすぎです。あと隊長引き止めようたって無駄だと思うんですけど。後の祭りというか、なんというか、イマサラってやつですよ。

「うるせえ、カエル。出しゃばんなよくそ」

「しょうがないですよー。ミーは素直ですから思ったことすぐ言っちゃうんですー」

「ちっ、いい加減黙れよ。じゃないと殺す」

「わぁ、やれるもんならお好きにどうぞー」

ミーの挑発に乗るなんて本当に短気な堕王子ですよ。両手をかざしただけでそこ目がけて趣味の悪いナイフがびゅーんびゅん飛んできて危うく心臓を貫かれるかと思いましたよ。ふー、危ない危ない。全く、誰に似たんですかねー、産んだ奴のツラ拝んでやりたくなりましたよー。叶わないことだってくらいは分かりますが。

「先輩って、全く素直になれないひねくれものだから質が悪いんですよねー」

「ああん?」

「ああん?じゃなくてですね、」

あーもう。そんくらい自分で分かってくださいよーうざったいですねー。
またまた趣味の悪いナイフを手に引っ掛けた先輩はどれだけ離れたのかもの凄くちっさいです。だけどミーは視力がとてつもなくいいんで見逃しませんでした。
先輩の耳がミーの放った言葉にぴくっと反応していたことを。

「大体ですねー、先輩、隊長が呼ばれて来るまではうざったい程に好き好き言ってたじゃないですかー」

「!!……てんめえ、それスクアーロに言ったら、」

「言いません、言いませんよー。ミーは本当は好き同士のくせに十八年間進歩の無い青臭い人達の応援なんかしたくありませんしー」

「お前、ガキのくせに分かった口利くなよ!」

分かります分かってますよ。図星なんですよね、そうなんですよね。証拠にワイヤーで操ってるはずのナイフも軌道を外れて壁に突き刺さってるし室内だから燃えちゃ困るとしまっておいた先輩ご自慢の嵐ミンクも中途半端に炎を注入されて上半身だけ出ちゃってますし。
間抜け。非常に間抜けだ。動揺しているのが丸分かりでまた笑いがお腹の底から込み上がってきましたよーふふふ。どうしちゃったんですかー?堕王子。

「確かにー、ミーは新入りでまだよく先輩達のこと知らないんですけど、二人を見てたらもう、分かりやすくて分かりやすくて……」

なんでこう二人とも色んな意味で複雑怪奇で取っ付きにくい性格をしてるのに、ばったり出会うとあからさまに目を背けたり思い付きの悪態ついたり分かりやすくて単純になるんでしょうか?
馬鹿らしい。もの凄く馬鹿らしい。
二人とも自分の気持ちに気付いてるならなんで早くお互いに言えなかったんでしょうか?

「ほんっと、馬鹿らしいですよねー、先輩達は」

ミーはこれまで生きてきて、ほとんど動かしたことの無いであろう頬全体の筋肉を使って、自分でも引いてしまうくらいに初めて大爆笑というものをした。



純粋な気持ちに悪意は無いのだろうが、


お互いに未だ好きだと伝えることすら出来ないだなんて、どれだけ幼く澄んだ感情なんだろう。


2009.06.30


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ