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□生まれ変わったら、
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生まれ変わったらまた、一緒になりたい?
そう問われたならばお前はなんと答えるか。
愛してるんだもの。そんなの当たり前だ、か?それとも今の相手じゃなければいくら生まれ変わりでも愛せない、か?
多分、いや、きっと俺は後者だ。
生まれ変わったら、なんて回りくどい言い方して自分達の愛は永遠だと信じたいだけじゃないのか?
だけどその間には今の相手とのさよなら、即ち死が待っていて悲しい思いをしなくてはならない。目の前に愛しい相手の死が叩きつけられただけでも悲しいというのに、どうして先の幸せを望めるのか。どうして、生まれ変われば、また会えたならば幸せになれると思える?所詮、偶然今の記憶を持って生まれ変われたとしても今の自分と相手とは違う。全くの別人だ。
それを愛せるのか?記憶の中ではどんなに愛しいと感じていても、その思いは届かず、隣に居るのは全く容姿も年齢も性格も、もしかしたら性別さえ違っている相手ならば俺は愛せない。それは脆い決意のようではあるが実はしっかりと自分自身の心に深く根強く刻まれた、自分の、俺の意志でもある。



「ベル、お前は生まれ変わったらまた、俺と一緒になりたいかぁ?」

「急にどうしたのさ」

俺はソファの上で、ベルに覆いかぶさって問う。だけどなんだか真っ直ぐベルの瞳を見据えるのが気まずくて、耳をベルの胸へ押し付け穏やかで変化のない、一定のリズムで脈打つ心音を聞くことにした。
こうすると、自分の中の幸せ、という感情が疼くんだ。とくん、とくん、心臓が動く度にベルの存在を示してくれて、その上ベルが安心して俺の傍に居てくれる温かさがどうしようもないくらい俺を優しく包んで。そして、必ず俺がこうするとベルはするり、と俺の髪を梳いてくれるんだ。

「別に……。ただ聞きたくなっただけだ。答えたくなかったら何も言わなくていい」

「ふぅん、そうなの」

「ああ、」

言って覗き見たベルの半分伏せた目蓋はゆっくりと数回、まばたきを繰り返した。
考えてる。絶対にもしも実際生まれ変わったら自分はどう思うのだろう、と、答えを探している。そんな瞳だ。俺の髪を梳いたまま、ベルは一点を見つめている。

「ベル、」

「ん?なぁに」

「そう深く考えるなよ。答えなくてもいいつっただろぉ」

「いーの。俺が考えたいだけだし」

「う"ーん……」

ベルは今度は目蓋を閉じてしまった。だけど髪を梳く手は止めずに片方では手探りで頬に指を滑らせた。
ほんのり指先の熱が伝わって、俺はただ唸るしかなかった。
考えるよりは直感で口に出した方が気持ちに近いと俺は思うんだが、素直に考えてくれているところは満足だ。だが、やっぱり考えてほしくなかったのも本音だ。

「考えすぎて寝るなよ」

「寝ないよ。俺もうガキじゃないし」

「16はまだまだガキだぞぉ」

「じゃあガキなんじゃない?あ、でもスクアーロも大人になって4年しか経ってないからまだガキだぜ?」

「そりゃそうだけどよぉ」

瞳が開いて視線を床、そして天井へやってから俺に戻してベルは口角を上げた。にやりでもにんまりでもなくましてや歯を見せる笑いでもなく。単に笑んだ、珍しい顔だった。
甘えたふうに擦り寄って確認しても柔らかに上がった口元は下がることはなかった。

「あ、」

「何だぁ?」

耳の後ろで聞こえた声はやはりどこか笑みを含んでいてベルの薄い腹の下の腹筋が震えたのが分かった。

「俺、生まれ変わってもちゃんと全部スクアーロじゃなきゃ無理だ」

気付いたんだ、その答えに。でもそんなのあり得ないだろ?だから俺はスクアーロしか愛せないよ。
ああ、俺と同じだ。言われて抱きしめられて、何故だか安心した、と言えば変だが同じ考えをしたことに妙に胸を撫で下ろしたような気分になった。

「俺も、俺もベルじゃねぇと嫌だ。生まれ変わったらベルじゃないし、俺もスクアーロじゃない……そんなの、どうやっても耐えきれねぇ」

「うん、同感」

再び頬に触れた指先の温度は上がっていて、すごく、熱かった。






2009.06.21


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