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□僕の我が儘は時に大事な人を、傷付ける。
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あんなに綺麗な髪も今は無き左手も、結局はあの人の為で俺の為ではない。


幾ら耳元で愛を囁こうが優しく口付けようが、それは変わらない。


「スクアーロは結局はね、ボスへの想いの塊なんだよ」

「……………」

だからだから、ね、スクアーロ。
俺はスクアーロの後ろ髪や義手の左手を見ると、そこにスクアーロのボスへの想いが見えて凄く苦しいんだ。
キスしてる時もベッドで戯れている時も、スクアーロがザンザス、ザンザス、って呼んでいる気がしてならないんだ。

「スクアーロ……。俺はボスの為だけに生きるスクアーロはもう、嫌いだよ……大っ嫌い……」

「ベル……………」

我が儘だってことくらいは分かってる。
スクアーロはボスに一生付いて行くと忠誠を誓って、その信念を曲げてしまうほど意志は弱くない。

それをなし崩しにして曲げてしまおうとする自分の言葉はとても卑怯だ。

苦しい苦しい苦しい。言葉は残酷に、そして確実に俺の首を締めてゆく。


溢れだして止まらない。

いつの間にか流れ出した涙の様に。


「俺はっ、俺はもっと、」

「ベル、」

「っ…!」

掴まれた肩にはっと視線をやると、スクアーロの身体が小さく震えていた。
そしてそのまま、きつく抱き締められた。

「スク、アー…ロ…?」

スクアーロは痛いほどに俺を抱き締めて、何やらぼそぼそと呟いている。
びっくりしすぎて、声がでない。

「ベル…、ごめん、ごめん……」

「っ…〜〜っ!」

ぼたぼたと音を立てて服に吸い込まれてゆくスクアーロの涙の雫達は酷く冷たく重たく、震える声は優しすぎて。
俺はただスクアーロの細い身体を抱き返してはむせび泣くしかなかった。




僕の我が儘は時に大事な人を、傷付ける。


もっと、もっと俺の為だけに生きて欲しい、なんて最悪の我が儘。




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