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□どこまでものどかな
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気だるくワインレッドのソファから零れ落ちそうな金色がふわり。天井を仰いだ。

のどかだなぁ…

仰いだソファの向こうの景色には、花のように綻んだ笑みの銀色が待ち伏せていた。

「わ、ベルお兄ちゃんだ。今ひまー?」

「うお、アロたんじゃん。何してんの?」

いひ、と無邪気な顔で笑いあうとベルフェゴールは傾いた上体を元に戻してからアロにこっちへ来るように手招きをした。
アロはそれを見ると、瞳を輝かせぐるりと大きなソファの周りを走って、ぼすんとベルフェゴールの脚の間に向かい合って座った。

「あのねあのねー、パパンとマンマがねぇ、」

「ボスとスクアーロが?」

ザンザスとスクアーロがアロの会話にあがることは全く珍しくは無いのだが、小さな手で服を握られて一生懸命話し掛けてくるアロの様子を見れば、聞かない訳にはいかない。

「ずーっと、ベッドから出て来ないなぁーと思ってたらね、いきなり何か投げたり怒鳴ってる声がして、マンマばジッガに帰るーとか言ってたー」

「じ、実家って……」

スクアーロ…。あんたの実家って何処だよ……。
まさか9代目のあのジジィの所じゃあるまいな…。

アロの見事な片言に、何時までたっても熱々な二人の姿を思い浮かべベルフェゴールは強かに頭痛がするのを感じた。

くそ、アロたんが変な言葉覚えたらどーすんだよ。こんの熟年バカ夫婦共。

「で、マンマは何処に行くって?」

ベルフェゴールは心底二人に呆れたが、取り敢えず今は聞きたいことは聞いておくことにした。

「えっとね、パパンが俺の所以外に行くところあんのかーって言ったらマンマがすぐに綱吉のとこだぁ!って」

「…そりゃパパン怒るぞ」

「?なんでー?アロたん達、ツナお兄ちゃんと仲良しだよ?」

どうしてぇー?と首を傾げられても。

リング戦が終わってからというものの、軽いいざこざはあったがなんせ向こう側の大空の守護者、もといボスはその甘さが命取りだ。で有名な沢田綱吉だ。
謹慎中に俺達が悪さしないように、なんて名目で皆の顔を見たいが為に毎週数回テレビ電話をするという甘さを見せてくれた。それに数十年たった今は、仕事がかたずいた時にはアジトへふらりと立ち寄ってはルッスーリアの入れたお茶を飲んで今の状況を聞いて満足そうに帰っていく。
大体今の状況、なんて会合でも聞けるのにね。

「ボスはね、スクアーロが取られるんじゃないかなって心配なんだよ」

「心配?」

「うん。心配」

毎週のテレビ電話は、最初の頃は皆しぶしぶ、というか半ば綱吉からの強制だったが、何もする事が無くて暇を弄びまくった連中だ。次第に綱吉の話に夢中になって、次はいつかと待ち遠しくて堪らないほどになっていった。
おまけに綱吉の話は全員話す内容が違うときた。
まぁ、話す相手が違うなら内容も多少は変わるのだが。
それでもあれよこれよと展開する話にはいつも驚かされる。話術はけっこーあるかもね、綱吉。

そしてそして綱吉はかなりの誉め上手である。
ダメダメ歴の長い綱吉は、ちょっとしたことで感動して、凄い凄い俺には到底出来ませんかっこいー!とおだてまくって誉め殺す。
特に単純なスクアーロは、あんなに良い奴だったんだなぁ、綱吉。とか言いだす始末。仕舞いには任務も綱吉の為に頑張っちゃうぜぇ!と意気込んで苦手なデスクワークまでこなしたり。

と、まぁ綱吉のことをものすんごい可愛がり始めたわけ。

そりゃあボスにしちゃあたまったもんじゃない。
ずっと自分の為にうざい髪を伸ばしてお前に一生付いていくぜぇ、なんて忠誠誓われてべったり愛を育んで俺にはボスしか居ねぇ、とか言われたのに。

綱吉綱吉綱吉綱吉。それはスクアーロの口癖になりつつあり、もうすでにそれで鼻歌も歌えちゃうくらいだ。

それに引き換え、明らかに減った、スクアーロが呼ぶボスの名前。
ボスは何だかんだ言ってスクアーロにザンザス、と呼ばれると必ず返事をするし物も投げなくなる。
だが最近はそれが全部綱吉にすりかわる。

面白くない。苛々する。

ボスは所謂、嫉妬、をしていた。

「心配かぁー、アロたんはそんな事しなくても良いと思うー」

「そーだよね、俺もそう思うよ」

ねー?ベルフェゴールとアロは同じ方向に首を傾げる。だってスクアーロはあんなに綱吉綱吉って言ってるけど……


どがんっ!!

ベルフェゴールの思考を遮って、ドアを叩き破るんじゃないか、むしろ周りの壁さえ破壊する気かってくらいの音を立ててドアが開いた。

正体は、想像せずともあの二人。

「う"お"ぉい!!!付いてくんじゃねぇ!!」

「うるせぇ、カスが!!!」

づかづかと進入してきたと思えば二人の大声に耳がやられそうだ。ベルフェゴールは自分の耳とアロの耳とを素早く塞いだ。アロもしっかり両手で耳を押さえた。

「いいかぁ…?俺はカスじゃねぇ…スクアーロだ、スペルビ・スクアーロだぁ!!それに俺はお前が謝るまで綱吉の所に行くのは止めねぇからなぁ!!」

「黙れ、カス鮫が!毎日毎日綱吉綱吉綱吉言いくさりやがって!俺への忠誠心はどうした俺への愛は何処にやった!!」

「ばっ…っ、俺はなぁ、ずっとザンザス一筋なんだぞぉ!!ザンザスへの愛がなけりゃ俺は…俺は…っ!!」

「……スクアーロ………」

何やら言いたいことだけ言って、二人は見つめ合って黙り込んだ。

「……分かった。そんなに言うなら今日は俺をしっかり消えねぇ様に肌に刻み込んでやる……」

「う"お"い、ザンザス。そりゃいつもそうだろぉ…」

全くだ。二人共いい歳して元気だね。仲直りしたらすぐベタつくんだから。
もう三十路のくせにお熱いこった。こっちには目もくれないでザンザスとスクアーロはまた来た道を戻って行った。

「ベルお兄ちゃーん?もういーい?」

「あー、もういいよ」

ベルフェゴールはまだ塞ぎっぱなしだった手をアロから離した。

「あれー?パパンとマンマはー?」

「ボスとスクアーロはまたおねんねだってー」

「ふーん?」

いまいち理解していないアロを見てベルフェゴールは口角を引き上げて笑った。

「うししっ。アロたんはお子様だからねー」

「アロたんお子様じゃないもん」

ベルフェゴールはむくれるアロの頭を撫で、サイドテーブルに置いていたサイダーに口を付けた。少々氷が溶けて水っぽいが構わずストローでぶくぶく泡立たせながら飲み干していく。

「あー!アロたんもしゅわしゅわ飲みたい〜!」

「だぁーめ。アロたんはお子様だからオレンジジュースでも飲んでな」

「やぁーだぁー!!」

スクアーロに似た銀色の髪を上から眺めながら、アロたんが将来あんな大人になりませんよーに。と、ベルフェゴールは小さく祈った。



(アロたん、ベルお兄ちゃんのお嫁さんにならない?パパンよりは優しいよ)


(いーよー。その代わりにしゅわしゅわちょーだい!)


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