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□ああ、麗しい僕の女神よ。辛い記憶にさえすがる僕は愚かなのですか?
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どうして、僕をそんな目で見るの?
どうして、僕のことを優しく呼ぶの?

「いずみさん!」

僕の腐れてしまって全てが歪んで聞こえてしまう耳に、甲高い、少女の叫ぶ声が聞こえた。彼女は僕を見上げて早くこっちに瓶を渡せと言うけれど僕にはもう、これしかないんだ。
これにしか、この瓶に入った昔の小さい僕の記憶にしか僕は頼ることは出来ない。
沢山あった瓶も、今はたった一つになってしまい、僕を焦らせる。
少しでいい、少しでいいんだ。例えそれが星の瞬きのように一瞬でもかまわない。一瞬でもかまわないから、母の僕に対する優しさを見たかったんだ。

「うるさい……。ミッキーまで僕の邪魔をするの?」

「いずみさん……」

彼女は優しくて温かくて、とても十二、三歳だとは思えないほど人生を悟っていて、最初からあった僕の母の記憶と似ていて安心出来る存在だった。
だから、だからこそ、今は安心出来ない。
安心して安易に彼女に瓶を渡してしまえば僕の望みが叶う可能性が薄れてしまう。
僕の、幸せがあるかもしれない、大事な瓶を奪われてたまるものか。
僕はとてつもなく、恐ろしくなった。

「いずみさん、いずみさん、いずみさん、」

「やめてよ、どうして僕を呼ぶんだよ、どうして僕を優しく包んでどうしようもなくさせるんだ、どうして……っ」

僕の心に深く足跡をつけながら侵入する彼女は僕を惑わせる。
やめろやめろやめろやめろやめろ。
部長に制止され、翼もない彼女がここまで来ることは出来ないはずなのに、彼女の声は嫌なほど辺りに響く。

「いずみさん、さあ、私に瓶を……」

差し出された真白い彼女の手にびくりと半身を引いた時、僕の醜い汚れた手から、するり、記憶の雫達が滑り落ちた。


2009.07.05




かなり捏造してるところがありますが、こんなシーンが本編にあったなと思って頂けたら


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