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□雨色の中で君にキス
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 雨は嫌い。私の心をどうしようもなく痛くするから。

 私の心の中には、あの日、自分で自分を殺した日から、ずっと雨が降っている。時には強く激しく、弱く静かに、私を毎日毎日削って小さくしてゆく。小さくなればなるほど、私はどうして文月さんにつらい思いをさせてしまったのだろうと思う自責の念と、文月さんと清十郎さんを大好きだった気持ちが入り乱れる。一番大好きだった文月さん。二人は結ばれて幸せになったの?それとも私のせいで離ればなれになったの?二人の未来がどちらでも、二人の心はずっとあの時の私に捕われてしまっているはずだ。あの日から私は後悔ばかりしている。どうしていいのかも分からなくなった。
 その度に、私は彼に会いたい衝動に駆られる。彼にいつも、雨が降っている時は抱き締めてもらうから、その温もりが肌から離れない。普段は素っ気なくて意地悪だけど、子どもみたいに体温が高くて甘えん坊で、私を大事そうに、傷つけないように手を繋いでいてくれる人。私にだけ、優しい微笑みを向けてくれる人。今の私の大切な人。さびしさに耐えられなくなって泣いてしまっても、その温かい掌に包まれたらいつの間にか涙は止まってしまう。彼の隣は居心地が良くて、気付いたら彼のことを好きになっていた。この先、絶対人を好きになることなんてないと自分に言い聞かせてきたのに、あやふやな気持ちが彼に向かって真っ直ぐに道を作っていくのを感じた。人の気持ちはよく分からない。
 雨は嫌い。だけど、雨の日は彼の匂い。濡れたアスファルトが乾いてしまうまでの時間が私は好き。

 だから、彼が踏切で立ち止まってしまったときは、私が温めてあげよう。彼と同じように、きつく抱き締めて「大丈夫だよ、私はここにいるから」とささやいてあげる。それだけなら私にだって出来るかも知れない。彼のような力強さはないけれど、包み込むことは出来る。全部の気持ちを共有することは出来ないけど、そばに居たい。

「ねえ、好きだよ。いずみくん」



2011.10.13 空気だけでもいずめろ。


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