Present
□かまってられないよ!
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「べるぅー」
「なぁに、スクアーロ?」
あーあ、またやってる。僕は目の前のうんざりする光景に、ため息をついた。
この独立暗殺部隊ヴァリアーの無駄にだだっ広い屋敷の中で、座る場所なんていくらでもあるだろうに、(それが柔らかいソファであろうが冷たく固い大理石の床の上であろうが、だ)狭い一人掛けのソファにまずベルが座って。その上に、と言うよりはベルの僅かに開いた脚の間に腰を沈めるようにスクアーロが長い肢体を投げだして横向きで座っている。
甘ったるい声でお互いに名前を呼び合って、何を話す訳でも無く近づいては鼻先を擦り合わせてくすくす笑っている。
まったく、一体その行為のどこに面白いことがあるのか分からない。
僕はフードの奥で、二人に見えないようにして顔をしかめた。
それにしても二人、ベルとスクアーロが付き合いだしたのはいつ頃だったっけ?当事者じゃない僕は正確に記憶なんかしてないけど、確か随分前、出会った時よりちょっと後だった気がする。付き合いたての時期ならともかく、何年も付き合ってのこの公害っぷりは何なのだろうか?
「ベル、俺の口が寂しいって言ってるぞぉ…」
「じゃあスクアーロの口が寂しくなくなるように俺の口で塞いであげよっか?」
「本当かぁ?じゃあ早く、」
スクアーロは自らベルの唇にがっつりくらいついて目を細めてうっとり、なんてしちゃってる。
ベルもベルで、僕が目に毒だからってフードの全ての布を上から引っ張ってコートの中に丸まろうとしたら、あからさまに僕を見てお子様だね、とでも言うように笑ったんだ!
あー、全身がかっと熱くなって痒い。気持ち悪い、そう気持ち悪いんだ。
前、ルッスーリアに二人はまだ若いし元気なために、任務がきつく激しいものばかりでたまにしかゆったりと一緒に過ごせないからって休みが重なった日をスウィートデイだか一日中キスをする日だかなんだか寒い名前をつけていると聞いた時ばりの気持ちの悪さだ。
僕がボスなら憤怒の炎で今すぐかっ消せるのに。
それか幻覚でも出して追い出すか?…やめた、力の無駄遣いだ。
諦めてしばらく、時間がいくつ経ったかは忘れたけど(だって丸まっていたんだもの)だいぶ経った頃に、スクアーロが腰をもじもじくねらせたと思ったら、すくっと脚のバネの勢いで立ち上がった。
「ベル、俺ちょっとトイレ行ってくるわ」
「ん、じゃあ付いてっていい?」
「んー…、しょうがねぇなぁ、行こうぜ」
しょうがない、なんて微塵も思ってない口振りでベルの袖を握るスクアーロはどこか嬉しそうで。
ベルはスクアーロの背後にぴったりくっついて腕を腰に回し、歩かせる気はあるのかないのか、スクアーロの広い背中に額を押し付けている。
「やぁめろって。そんなとこ触んなよぉ」
「だってスクアーロ可愛いんだもん」
「う"お"ぉい、照れるだろぉ?ベルー」
「しししっ、いーじゃん。ホントのことだし」
ちょっとお二人さん、トイレはまだ先だよ。
ドア先でかちゃかちゃとベルトを外す金属音がやけに耳につく。
果てはスラックスのジッパーを下げる音までもがねっとりと舐めるように聞こえてきたりして、もう限界。ちょっとずつだけど端から見たら情けない格好で前進した二人に向かって、僕は一言言ってやらねば、と思い叫んでやった。
「ベル、スクアーロ!!トイレに行くなら絶対に二人して個室に入らないでよ!こっちが恥ずかしいんだから!!」
本当、公害カップルになんてかまってられないよ!
(あれ、ばれてた?)
(君達の考えてることなんかお見通しだよ、馬鹿!!)
(馬鹿じゃねぇよぉ、ラブラブだぁ)
(……もう知らない……)
・
ベルとスクアーロが気持ち悪い程のバカップルですいません。
マーモンの名前出てなくてもマーモン視点だと言い張らせて頂きます。
マーモンは馬鹿とか叫ばないかな?とは思いましたが、この件を書きたかったのでそのままにしました。
杞宇様のみお持ち帰りください。