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□おかえりなさい、あなた
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ぼーっとしている。
ぎしり、と軋むスプリングの音が聞こえて気だるく目蓋を開いた。先程までは真っ赤なザクロみたいな内側を見ていたのに、今では視界の全面が金色に犯されてしまって覚醒しきっていない頭は状況に付いていけずに置いてきぼりをくらっている。
「スクアーロ、スクアーロ、」
優しく、まるで羽根にでも触れるかのごとく優しく、髪を梳いて耳元でひそひそ声を潜め名前を囁く相手にただぼうっとした視線を向け、心地よさにまた、目蓋が重くなるのを感じる。
久し振りの相手の温かい体温や首筋から僅かに香る甘いコロンと体臭にまで安心してしまうのだから、自分もなかなか思考が柔らかくなったものだ。
どくん、どくん、脈打つ心臓の音が恋しい、なぁ…。
遠くなる意識に抵抗する力も無く、閉じかける目蓋を数度瞬かせて相手の胸へ手をやる。
穏やかに繰り返される心音が、相手の存在を静かに示し無事に帰ってきてくれた、と安堵する。
「お帰り、ベル…」
お前が帰ってくるのを待ってたぜぇ。
おかえりなさい、あなた
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