刹那
□第二章 会いたい人
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目が覚めると、朝日が背後の窓から差し込んでいた。周りを見渡すと、執務用の机に沢山の資料。その先には、側近の二人がそれぞれの椅子に座ったまま寝ている。
手には資料を持っている。多分、仕事をしながら寝てしまったのだろう。
ふと、肩をみると武官用の上着が掛かっていた。目の前にいる、飄々とした策士みたいな彼のものだとすぐに分かった。
───こんな温かい気持ちになれるのはあと何回だろうか。
フッと自嘲気味に笑う。
分かっている。いずれかは一人になる。いつまでも、こんな風にはいられないこと。
そんなくだらないことを追い払うように、前髪をぐしゃっと掻き上げる。
細く、繊細な髪はすぐに元通りになった。
この色は、母親譲り。
くせの無い、まっすぐな白金色。光を浴びれば、宝石の様にキラキラと輝く。
グッと瞳を閉じた。
もうどのくらい会っていないだろう。
気高さと威厳に溢れた、我が母君。避けられている、と分かっているけれど、やはり母親を嫌いにはなれないのだろうか。
瞳を開けると、再び資料を手に取る。その中に感情は感じられない。
“王”の瞳をしていた。
【第一話 出発】
賑やかな人の声が聞こえる。今日は市の日だろうか。
楽しそうな、明るい声や。人を呼び込んでいる声。みんな幸せそうに笑っている。
アリアは宿の窓から町を見下ろしていた。
───このまま、平和な時が続けば良いのに。
そう願わずにはいられなかった。
いや、続けさせる。
もう……罪の無い人間を死なせたりなんかしない。お父さんやお母さん、将軍の妹君や、戦で亡くなった多くの死を無駄にさせないために。
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