title

□甘酸っぱいスモモ
1ページ/1ページ


「ねえ、なにこれ」

杏奈が怖い顔で突きつけてきたのは、真っ赤な口紅。

「……ああ」
「何その反応? 浮気くらい見つかってもなんともないってこと?」
「違うよ。それ、」
「言い訳はいいの」

こういう時の女の人は怖いと思う。
何か下手なこと言ったら獲って食われそうというか、リアルに刺されそうだ。
しかも杏奈の方がキッチンに近いし。

「……じゃあ、弁解させて下さい」
「なによ」

心なし目が涙ぐんでいる。
多分、ちゃんと弁解してくれることを望んでるんだろうなあ。

ていうか、そもそも弁解もなにも俺悪くないんだけど。

「杏奈、その口紅って袋に入ってなかった?」
「……入ってた、けど」
「袋にメッセージカードもあったでしょ」
「見て、ない」

やっと少しおかしいと思ったのか、杏奈は口紅のあった袋を急いで持ってきた。
浮気相手の口紅なら、もっと分かりにくく隠すだろうに。少なくとも紙袋に入れてはおかない。

「誕生日おめでとー、杏奈。一週間早いけどね」
「…………ごめんなさい」

微かに頬を染めて俯く杏奈。
恥ずかしいのだろう、色々な意味で。

「で、も!」
「え、まだなんかあんの?」
「プレゼントならもっとちゃんとラッピングしなさいよ! なんで紙袋!」
「あー、それはそうか」

たしかに我ながら雰囲気のない包みだとは思う。
でもなんとなく、その方が俺っぽいと思ったのだ。

「当日に服も買ってあげるから、それでどう?」
「それ、なら……ていうか、別に嫌なわけじゃないからね」
「分かってるよ」


杏奈はちょっと意地っ張りなだけだもんね。
そう言うと杏奈は真っ赤な顔で背中を叩いてきた。

よかった、何時も通り。


end

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ